店内に流れる心地よい音楽
紅茶とコーヒーの優しい香り
時折聞こえてくる誰かの笑い声
それぞれの時間を楽しむ場所
街の中にひっそりと佇む喫茶店。『アンブレラ』そこがわたしのバイト先だった。アンティーク調のテーブルや椅子が置かれた落ち着いた店内。少し薄明かりの照明に、ゆったりと流れる音楽。
カウンターには様々な種類のコーヒー豆やお茶の葉が入った瓶が並んでいる。一番端の席にはこのお店の店長である人が座っていてわたしの話に適当な相槌をうっていた。
「聞いてます店長ー!?」
「はいはい、聞いてるってば」
そう言いつつ本からは視線を上げない店長。モアさんはとても綺麗な女性だ。年齢は聞いたことがないけどきっと30代前半だろう。綺麗な緑色の短いボブヘアー。切れ長目の金色の瞳。赤いメガネがとてもよく似合う。
滅多に笑うことはないけれど、クールな表情がとても綺麗で素敵だ。
「わたしもう16歳なんですよ?」
「若いなー」
「れっきとした女性ですよ?」
「うんうん」
「添い寝とか言ってベッドに入ってくるんですよ?!」
「あー」
…聞いてない!全く聞いてない!適当に返事が返ってくるだけだった。はあ。と大きくため息をつく。その原因はもちろんヒソカさんだった。
朝起きたらあれほど言ったのにベッドに忍び込んできていたのだ。おかげで朝から叫んで念能力使って掃除も洗濯も満足にできなかった。
怒りやら虚しさやらいろいろこみ上げてきて掃除しているホウキを強く握りしめる。ミシ…と少し嫌な音がしたので慌てて力を抜いた。
「すみませーん」
「あっはーい!」
お客さんに呼ばれて慌ててフロアにでる。このお店の従業員はわたしだけだった。そんなに忙しくなることはなくてお昼はランチメニューで少し混むぐらい。
「店長ーダージリンティとAランチ入りましたよー」
「はいはい」
ぱたん、と読みかけだったであろう本を閉じてモアさんがめんどくさーとか呟きながら立ち上がる。
…いやいや、注文ですからね?ダージリンティを準備しながらAランチのサラダをお皿に盛り付ける。ごゆっくりどうぞーと笑顔と一緒に料理を運んだ。