私の親友であるミーシャことアルテミシアには双子の兄がいる。ウェーブのかかった銀髪に紫のメッシュが入った髪が特徴のエレフことエレフセウス。

愛らしく可憐さを連想させるミーシャとは打って変わり、目付きが悪く愛想もない奴は俗に言う不良少年(いや、青年か?)というやつだ。だが何とも得な奴で彼、エレフセウスは同時にイケテるメンズでもある。いや、まあミーシャと双子な訳だから当たり前っちゃ当たり前なのだけれど。

その彼はどうやら私のことを嫌っているらしい。らしい、というのは本人の口から直接聞いた訳ではないからであるのだけれど奴の態度を見ていれば明らかで。私を目の前にするとあからさまに顔を歪めたかと思えば、視線をどこかにさ迷わせたり。

はたまた、ミーシャと話したそうにしているから気を効かせて私が席を外しオリオンとかその他友人等と話していれば物凄い形相でこちらを見てくる。オリオンなんか私と話しているのに問答無用で連行されてしまったりする。


「一体何なのよ、アイツ」


私が溜め息を盛大に零し、あからさまに苛立っていることをあらわにすれば向かい合わせに机に座りお弁当を頬張るミーシャが一瞬きょとんと手を止めて私を見た。私がちらりとオリオンやシリウス達と談話しながら机を囲む彼女の片割れを見遣ればミーシャはああ、と納得したのか小さく頷き再び口をもきゅもきゅと動かし始めた。


「はっきり言って理解不能。何がしたいんだエレフセウスめ…」
「名前ってば身内が目の前にいるって言うのに容赦ないわね」


いつの間に食べ終わったのか紙パックのレモンティーを飲みながらミーシャは小さく苦笑しながら話しかけた。うん、いやまあ…私だってそれくらいは思ったさミーシャさんよ。


「だってミーシャだって知ってるでしょ?アイツのあの失礼窮まりない態度を!」


ばんっと机を軽く叩いて熱い意思を篭めた視線をミーシャへと送ればミーシャは少し考えるような仕種をした後、「確かにそうね」と微笑んだ。


「でも、それって多分ね。私、名前のことを嫌ってやってるんじゃないと思うの」
「は…?」


思わず購買で買った焼きそばパンをかじる手を止めてミーシャの綺麗な紫水晶の瞳をまじまじと見詰める。私のことを嫌ってやってる訳じゃないだって?じゃあ何故あんな態度をとるというのだ。早速訳が分からなくなって来たぞ。


「エレフセウスってツンデレな訳?そんなの私のみに発揮されても困るんだけど。何それ、そんなオプション本当いらないから。虚しくなるだけだから」


何時まで経ってもしっくりとした答えが出ない私は眉を潜め、首を傾げながら1番可能性として高いものをあげた
するとミーシャは困った顔をして笑い、うーん…と手を口許に宛てながら唸った。…なんか何をしても上品なんだけど、この人!


「それは…私の口からじゃ何とも言えないわね」
「え、何それ」
「だって私エレフじゃないもの」
「いや、確かに…そうだけどさ…」


確かにそうだけどその口ぶりからして何か知ってるんだろ、ミーシャさんよ。しかし教えてくれよ、という私の言葉はミーシャの怖いくらいとびきり素敵な笑顔によって喉元で留まることとなった。


「そんなに気になるのなら直接本人に聞いてみたらどう?」
「は?!無理無理。キングオブチキンなこの私にそんなこと出来る訳が無いじゃん」


そう胸を張りながら言い聞かせれば、「惨めよ名前、よしなさい」という容赦ないツッコミが帰って来た。ミーシャってさ、思ったんだけど時々辛辣だよね。というか、実際どうしたら良いんだよ。直接って本当有り得ない。


「ねえ、ミーシャ。よく考えてみよう?私がエレフセウスに話かけたところで…」


「エレフセウス君、」
「何だよ…って、なっ?!う、わ…お前」
「いや、やめてよ。人のこと指差さないで」
「わ、悪ィ…ちょ、俺購買行ってくる!!」
「は?え、ちょっと…」
「オリオン、5時限目バックレるわ!!」
「え、エレフセ…」
「じゃ、そっ…そういうこだから…」


「ってなるのは目に見えて分かるじゃない」


そう言ってミーシャを見れば悟りを開いたかのような表情をしていた。大丈夫かと問えば「ああ、うん…そうよね、そうなるわ」と相変わらず据わった瞳で遠くを見詰めながら私の意見を肯定するように呟いていた。

ほら、見ろ。ミーシャだって分かっているじゃないか。伊達にあんな態度を取られて長いことやって来てる訳じゃない。何度同じような仕打ちを受けたことか。思い出し苛々として来た私は憤怒の炎をめらめらと燃やす。


「…でもね、名前」
「? ミーシャ…?」


先程の表情とは打って変わり、ミーシャは慈悲に満ちた瞳をしながら私を見詰めた。そんな彼女の雰囲気に私も思わず握り締めていた拳を下に下げ、真剣にミーシャを見詰め返す。


「さっき、私からは何とも言えないって言ったでしょう?」
「うん。ミーシャはエレフセウスじゃないからって」


ミーシャの言いたいことの意図が掴めずにいる私は首を捻る。ミーシャはその長く真っ直ぐなエレフセウスと同じ銀と紫の髪を軽く梳いて耳へとかける。この仕種をする時のミーシャは少し気持ちが高ぶっていたり、物事が上手くいかなかったりする。

今、まさにその仕種を私の目の前でして見せる彼女は悩ましげな表情をしてどこかを見ている。私がその視線の先を辿っていけばそこにいたのはエレフセウス。その周りでは少し苛立ったようなオリオンと、対照に生き生きと少し意気込んだようなオルフ君がいる。

よくよく見ればエレフセウスを筆頭に何故だかこちらを見ていることが分かった。私はその視線がエレフセウス以外が私を向いていることに気が付いた。

嗚呼、言っておくがこれは決して自意識過剰等ではない。何故ならばオリオンが先程から必要以上にアイコンタクトをとってくるからそれは確証済みなのである。


(は…?エレフセウス…?何で)


オリオンの指示通りエレフセウスへと目を向ければ一瞬目が合った。が、瞬間そりゃあもう盛大に逸らされた。嫌がらせか、と思い軽く溜め息を吐けば隣でミーシャが動いた。

冷静な表情のまま腕や手をやたら動かしているミーシャは何だか物凄く違和感があった。だがその先を見ればエレフセウスもミーシャ同様。いや、それ以上に大きな身振り手振りで何かをしている。ミーシャはともかくエレフセウス。若干クラスメートが引いていることに気付け。

まるで宇宙人と交信しているかのようなこの双子はあまりにも対照的だった。表情を崩さぬミーシャは段々とそのジェスチャーがどこぞのヤンキーのようになっていく
そしてその交信相手であるエレフセウスは顔を赤くしたり、青くしたり…兎に角必死なのだ。

この場にいる全員が注目する中(多分本人達は既に周囲が見えていない)ミーシャびしりと親指を突き立てた。かと思えば勢いそのままにその指を私へとミーシャは向けていた。あまりにもその勢いがよくて思わず身をのけ反らせながら、私はたじろいだ。


「みっ…ミーシャ…?」


恐る恐るとでも言うように声を上げた私にミーシャは「なあに?」と私に指を向けたまま笑顔で振り返った。私はその途端体を完全に硬直させた。


「ふふ、ごめんね名前。ちょっと私今エレフに腹括らせる為に忙しいの」


後でもいいかしら、と続けたミーシャに私は勢いよく首を何度も縦に振った。視界の端でオリオンが物凄く憐れんだ目で私を見ながら、ご愁傷様と呟いたのが見えた。この瞬間私は悟った。ミーシャが味方ではないということを。

私は呆然としながら双子のやり取りを見遣る。相変わらず全く意味は分からないのだが、何となく話が終盤戦に差し掛かっていることが分かった。何故ならミーシャの口端が釣り上がって来ているからだ。

エレフセウスが涙目になってきていて、思わず同情してしまう。なんて可哀相な奴。私にこんな双子の妹がいたら精神ズタボロな上手玉に取られてるんだろうな、と案外似た者同士なのかもと思った。


「…い、…おい!!」


いきなり誰かに話かけられ、私は弾かれたようにそちらを向いた。いかん、いかん。考え込んでしまっていたのか周りに全く気付かなかった。申し訳ないなと思いながら顔を上げた私は思わず石よろしくそのまま固まった。


「き、聞いてんのか?」


どうしたことか。なんと私の目の前にはいつの間に動いたのか、エレフセウスがいた。なぜだか顔を赤くさせている。だが今の私にはエレフセウスが目の前にいるということが衝撃的過ぎて、あまり気にはならなかった。固まる私に大分動揺なさっているご様子のエレフセウスは何か私に言っている。だが私の耳には全く入って来ない。


「むっ、無視してんじゃねーよ!」
「えっ!いや、え?あ、うん?」


ごめんね、と素直に聞いていなかったことを伝えれば一瞬エレフセウスの瞳が潤み「なっ…?!」と声を上げた。や、だからごめんってば。


「で、何?」
「っ、あぁ?」
「いや、あぁ?でなくてさ、用があるんじゃないの?」


じゃなければ話かけてなんて来ないだろうよ。一体何用だ。ちゃっちゃと済ませてくれ。お前でかいから首痛いし疲れるんだよ。だから早くしてくれ、もしくは屈め。そう思いながら私より大分背の高いエレフセウスを見上げる。するとエレフセウスは一層顔を赤くし口をぱくぱくさせた後私を見た。

じっとエレフセウスを見詰めていればなんだか何時かに読んだ少女漫画を思い出した。なんだかよくありがちなラブシーンのような状況に思わず小さく笑ってしまう。だが、そう思えば思う程エレフセウスの口ごもりっぷりが告白する女子に見えて仕方ない。

真剣な瞳のエレフセウスに思わず口許が緩む。見詰め合った私達が口を開いたのは同時だった。


「なんだかこれ愛の告白するみたいだね」
「好きだ!」

「「……え?」」


瞬間心なしか空気が凍ったのが分かった。オリオンを見ればあちゃーと額に手を宛てながら溜息を零している。オルフ君は打って変わり大爆笑。ミーシャへと目を向ければ拍子抜けしたような顔をした後引き攣った表情をしている。

まずった。そう思いながらエレフセウスへと視線を戻せば俯いてふるふると震えている。まずい、まずい、まずい。


「あ、の…エレフセウス君ごめ」


申し訳なく思い、私は口を開いたがその言葉は全て言い切ることなく遮られた。エレフセウスによって。


「ちっ…ちちち違え!何勘違いしてんだ


ばか、
そんなんじゃねーよ!!



俺は自分が好きだ!大好きだって言ったんだよ!!」


そう言われてカチンと来た私より先に、盛大にナルシスト発言したエレフセウスはミーシャとオリオンによって沈められていた。ご愁傷様、エレフセウス。それから、一つ尋ねたい。結局、何だったんだ…?



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