※学パロ



「エレフってシャイだよね」


唐突に呟いた女を俺は黙ったまままじまじと見詰めた。その上「シャイタンよりシャイかもよ」なんていかにも私上手いでしょ、的などや顔して来たもんだから、いきなり何なんだと言う意味を篭めて視線を向けた。そうすれば、この女基名前は特に変わった様子を見せる訳でもなく。ただそれが普通だとでも言うかのように俺を見ながら平然と口を開いていく。


「いや、この前思ったの。というか、ミーシャと話してて気付いた」


そこでまさか双子の妹の名が出て来るとは思わなかった俺は目を僅かに見開く。名前は思い返すような仕種を見つつ、俺は邪気のない笑みでいっそ清々しい位に酷く笑う妹の様子を思い浮かべた。何だかぶるりと寒気がして、首を左右に振っていれば名前が意味の分からない言葉を喋った。


「いやでも、やっぱツンデレなのかも知れないなあ…って、え?何エレフ」


訝しげな俺の視線に気が付いたらしい名前は既に「あれ、アンタそこにいたの?」的な目をしている。いや、悪い感じじゃなくてきょとんとしながら。あ、今俺悪意がない分余計に傷付いた。仮にも愛しい彼氏にそれはないんじゃないだろうか。口に何て絶対に出したりしないが、はっきり言って叫んでしまいたい程のダメージは負ったはずだ。


「…ツンデレってなんだよ。お前日本人なら日本語話せ」
「うわー、嫌ー。超いやー。ギリシャ人に日本語で説教されるなんて本当嫌ー」


ぶち、と来た俺はがたがたと席を立とうと試みた。しかし俺が怒ったことに驚いた風な彼女は、慌てて「ごめん、ごめん」と気の抜けた。だが、謝罪の意はあるのだろう申し訳なさそうな顔で謝って来た。尚も立ち上がれば今度はきゅっと俺のワイシャツの袖を頼りなさ気に掴み、上目遣いというなんとも美味しいオプション付きでこちらを見上げて来た。


「ごめんね、エレフ」
「…今回だけだからな、」


はい、白状しよう。実に煩悩と本能に忠実な俺は迷うことなく席へと腰を落とした。その間、内心舞い上がっていた俺はそれがばれぬよう、いかにも渋々といった態度を上手くとる。
なんだかんだで俺が席に着いたことにほっとしたのか愛らしく微笑んだ名前。それがあまりにも可愛らしくて俺は思わず目線を逸らした。その瞬間、電子音が鳴り響く。


「あ、ミーシャ」
「出ろよ、後が怖えし」
「うん」


どうやら発信源は名前の携帯電話。しかも俺の双子の妹からの電話である。後で何されるか分からないという恐怖を前に取らぬ訳にはいかない。俺は俺と携帯電話を交互に見て困った表情をした名前に電話を取るよう促した。


「もしもし、ミー」
『ああ、名前!!エレフ、どうだったかしら?』


名前がミーシャと呼ぶより先に、ミーシャがそれを遮り少し興奮したような。もうまるで「わくわくしてて堪らないんです私」と全力で主張するような音量と声音が聞こえて来た。どうしてだろう、嫌な予感しかしない。


「? ああ!あれ、ね。うんミーシャの言われた通りにしたら成功したよ」


あれ、って一体なんだ。俺は何をされたんだ。どうしたんですかミーシャさん、俺の名前に何吹き込んだんですか。血の気がさあと引いていくのが分かる。俺の中の何かが全力でこの先を聞くことを拒否している。だが、現実とは無情にも待ってはくれない。


『うふふ、そうでしょそうでしょー?エレフったら絶対に名前に上目遣いされて頼まれごとしたり謝られたら、断れないし許しちゃうと思ったのよね、私』
「すごいね、ミーシャ。さっすが双子」
『あっはは、ちょろいもんよ。ね?エレフー』


このくそ女共と怒ればいいのか、素直に落胆すればいいのか。ふるふるとやり場のない怒りに拳を震わせていれば俺の耳にはっきりとスピーカー越しに届いたミーシャの声。自動的に電話越しの妹の恐ろしい程の笑顔が浮かび、それに思わず顔を青くした俺は兄としての威厳も、彼氏としてのプライドも無きに等しいものなのだと実感した。


あ、そうだ
ツンデレはツンツンデレデレのことだよ




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