「リリちゃん、リリちゃん」


エヴァンズをそう呼ぶのは同じグリフィンドールの苗字。あいつは日本人らしく、あまり俺達や他の奴らとは馴れ合わないが、エヴァンズと気に入らねえがスニベルとは何となく仲が良かった。普通に見たら素っ気ないかもしれねえけど、俺は変にべたべたして仲良しアピールする女子よりよっぽどこっちの方がいいと思った。


「お昼やっすみはウキウキウォッチン」


…時々、変な歌歌ってはいるけど。俺はエヴァンズに用件を済ませスキップしながら何処かへ…と言っても図書室なんだろうけれど、向かって行く苗字の背中を見送った。

そんな俺を見ていたらしいリーマスとジェームズ。それにエヴァンズがこっちをまるで珍獣でも見たんじゃないかって思うくらいに凝視していた。因みにピーターはそんな三人を不思議そうに戸惑ったように凝視していた。何だこの奇妙なループは。そう思い、俺は少し溜め息を吐くと三人を見た。


「何だよ」
「やだ、ブラックそんなに怖い顔しないで」
「そうだぞシリウス」


…悪かったな、生れつきこういう顔なんだよ。エヴァンズとジェームズの言葉に眉を寄せれば、言葉にせずともリーマスは分かったようで「シリウス、ふてっ…腐れるなよ…」と言った。おい、リーマス。その笑いがまるで隠し切れてないぞ。怨みがましく睨めば、数倍の何かを含んだような笑顔で返され俺は口を閉ざした。あー、怖っ。


「で?」
「え?」


一体何なんだよ、とエヴァンズ達に目を向ければ三人は困ったように笑いあろうことか此処まで来てはぐらかした。俺は訳が分からず、思わず席を立ち声を荒らげ…


「ブラックくん」


ようとした。が、それは予想外の第三者の登場によって阻止されることとなる。ぽんぽんと肩を叩かれ、そのままそちらを勢いよく振り返れば頬に鈍い痛みが走った。俺は驚きそのまま口を動かせば頬に圧力がかけられているせいか、うまく言葉が発せなかった。なんらこえ。


「引っ掛かったな悪戯仕掛人」


にしゃり、そう笑ってぱっと俺の頬から指を離した苗字を見てああこいつの指が頬に刺さってたのかと理解した。面白そうに可笑しそうに、それでも嫌な感じはなくて。本当に楽しそうに笑う彼女にどきりとした。…待てよ、どきりってなんだ?


「名前じゃない!図書室に行ったんじゃなかったの?」
「それがさリリちゃんにまだ用があったんだけど…」


二人が何かを話しているが残念なことに俺の耳には全く会話が入って来ない。というか、どきりって…俺、まさか苗字のこと、好きなのか…?俺は思わず固まったまま苗字を見た。え?ちょっと待て。好き?誰が、誰を?俺が、苗字を。好き…だと…?!

いーや、それはないだろ。俺は苗字に目を向けたまま考える。確かに苗字は可愛いと思う。さばさばとしているのに小柄で童顔なせいと、ちょっと変わった感じのお陰で加護欲をわんさか掻き立てられるがそんな訳がない。

だってそもそも、先ず俺達にはあまり接点がない。関係的にも友達の思い人の友達な訳だからかなり遠い。だから俺が苗字に惹かれるような所は一切、いっさいない筈だ。そう一人事の整頓をしていた途中だった。


「ブラックくん、」
「どわっ!!」
「(どわ…?イケメンがどわ?)」


気が付けば苗字が目の前まで来ていた。びっくりして俺は思わず間抜けな声を出してしまった。今なら恥ずか死ねるかもしれない。だが此処で顔を手で覆う訳にもいかず、俺はそのまま結構な近距離にいる苗字を見た。すると苗字は若干言いずらそうに口を開いた。


「あ、あんまりその…人のことジロジロ見ないほうがいいと思う」
「………へ?」


珍しく表情を崩してほんのりと頬を染めた苗字に向かって、俺は思わずまた口から間抜けな声をもらした。そんな俺にきょろきょろと視線を数回さ迷わせた苗字は一層恥ずかしそうに顔を赤くした。可愛いな…って何考えてんだ俺。


「だから、自意識過剰みたいで恥ずかいんだけど…さっきからその、凄い…そんなに凝視されると、気になるし…」
「?」


ちらりと俺を見上げた苗字は意を決したように口を開いた。その瞳はどこか真剣で俺の方まで真面目に聴き入ってしまっていた。それがいけなかった。


「ブラックくんカッコイイからね、次やったらその…て、照れちゃうぞ」


もう照れてませんかお姉さん。思わずきゅんっときた。何だか胸が鷲掴みにされた気がしたし、不意打ちに俺はがっちりフリーズした。横では苗字に可愛いと連呼して飛びつくエヴァンズ。普段が逆なため珍しく思うが今の俺にはエヴァンズの意見に同意せざる終えなかった。

困ったようにエヴァンズを抱き返した苗字と目が合う。困ったように笑った彼女に再び俺がきゅんときたのは言うまでもない。ああ、ちくしょう本当可愛いなあ、オイ。


不意打ちにご注意
半年後晴れて恋人同士になりました



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