※星屑(性転換)
 Bad end




俺は俺は俺は!ただただお前を愛していたのに、その柔らかなはにかむような笑顔も。優しい声音も好きで好きで仕方なくて、こんな言葉じゃ言い表せないくらいたまらなく愛おしくて。

あの日、あの星空の下で誓ったあの約束は嘘だったのか。いや、嘘なわけがない。だってお前は言ってくれたじゃないか。俺に、あの優しい声で。俺の大好きなあの声で。俺を好きだと、愛していると。今だって昨日のことのように、鮮明に覚えているんだ。お前が嬉しそうに笑ってくれたあの幸せな日々のことを

−綺麗、だな
−ふふ、そうね、確かに綺麗な星空。だけど…
−だけど…?何だよ
−…聞きたい?
−何だよ、勿体ぶんなよ

そう言った俺にお前は悪戯っ子のように笑ってから、少しだけ照れた様にして言ったよな。

−私は貴方の鮮やかな深紅の瞳の方が、
 もっと素敵だと思うわ

俺があの言葉にどれだけお前を愛おしく感じたかが分かってるか?あの日のお前の言葉で俺は赤が好きになったんだ。俺はあんな日々が今も愛おしくて仕方ないんだ。なあ、俺とのあの日々はお前にとって何だったんだ?ほんの些細なことなのか。気粉れだと言うのか。

誰かが言っていた。俺は愚かなんだと。繰り返される恋模様の中のほんの些細なことでしかないのに、そんな些細なひと時を、永遠だと信じたりして。そんな不確かなものを、運命だと信じたりして。確かに俺はあのお前との日々が永遠に続くものだと。俺とお前が出逢ったことは奇跡ではなく運命なのだと、心から信じていたんだ。

だからこそ、お前を思うが故に俺は他の女にちょっかいを出したりしていた。俺が他の女といて、お前は悲しむのだろうか。俺が他の女とキスをして、お前は泣くのだろうか。俺が他の女を抱いて、お前は憎むのだろうか。

今まで見たことのないお前の表情が見たくて、普段見る笑ったり、愛したりそんなんじゃなくて、もっと歪んだ表情を。俺への思いでいっぱいになって、苦しんで、縋って、束縛して、嫉妬して欲しかった。

だけどお前は何時も寂しげに笑うだけで、自分の望むものが手に入らない俺は酷くそのことが苛立たしくていつまでも他の女で遊んでいた。

そんな誰か曰く些細なことでしかない俺の恋愛模様の中。偶然とはいえ、嗚呼…偶然とはいえ俺は見てしまったんだ。あまりにも衝撃的なそれは俺を呆然とさせた。思わず絡められていた名も知らぬ女の腕を振りほどく。嘘だろ、何で、どうして。言い出したらきりがない疑問。

お揃いの白い服を着て幸せそうに寄り添い歩くお前と見知らぬ男の姿を。その光景を目の当たりにした途端、俺の中で黒い黒い憎悪の焔が燃え上がった。お前へ抱く激情と醜くも歪む嫉妬の焔

お前の初めては全て俺のものだった。手を繋ぐのも、キスも、セックスも。全部俺のものだった。なのに、何でだよ。お揃いの服なんて、オソロイなんて俺とはしたこと無かった筈なのに、お前は俺の目の前で俺以外の他の男とそれをしている。その事実に俺の中で何かがぷつりと切れた。

お前の中での俺は一体何だ。お前は俺のものだろう。俺の、俺だけの可愛い《お人形》愛しいお前は、解ってくれるだろ?ちっぽけな自尊心なんかじゃない。月夜の《別人格》は勝手?違う、お前を愛し過ぎたばっかりに蠢くんだ。

悪いのはお前なんだ。俺を見ようとしなくなった瞳をこちらに向けようと、その細く白い首を絞めれば、お前は苦しそうに俺じゃない誰かを呼んだ。嗚呼、あの男がお前を狂わせたのか?

何でこんなことをするのかと、泣きながら俺に問うお前。だってしょうがないじゃないか、お前を…お前を憎む程愛してしまったんだから。お前が俺を狂わせたんだ。何故?何故俺を、俺をこんなにも狂わせた?

泣きながら帰ったお前を寂しげに見る俺に、お前は一向に気付いてはくれない。たまたま誰かが言ったのを聞いた。お前は明日結婚するのだと。俺は笑った。不思議と悲しくなどなく、ただあるのは狂いに狂いきった愛情。

真っ赤なお気に入りのジャケットを羽織り、真っ赤なチョーカーを身につける。真っ赤な薔薇を持ち、一度外に飛び出せば己のプラチナブロンドが輝く。すれ違う女達は誰もが振り返り、俺を見ては悩まし気な溜息をつく。だが皆俺の手元を見ると途端に顔色を変えて行く。左手には花束、右手には約束を。疾りだした衝動をそのままに俺の脚は軽やかに式場へと向かって行く。嗚呼、純白に身を包んだお前を見た途端、もうこの狂おしい衝動は止まらないと確信した。

一発の銃声と、人々の悲鳴や怒声が響き渡る。煩いので一発、もう一発と銃口から火を噴かせていけばあっという間に式場は静けさに包まれていた。右手に持っていた用済みとなったそれを捨て倒れ込むお前をゆっくりと抱き上げれば、純白の衣装が今は鮮やかな深紅(Scarlet)に染まっているのが確認出来た。これでやっとお揃いだ。初めては貰えなかったけど、俺達これでお揃いだ。嗚呼、何て幸せなのだろう。

愛と憎しみは表裏一体、とはよく言ったものだ。愛憎ならば誰にも負けない。だってお前に対するこの気持ちは今や愛憎でしかないのだから。こんな俺に対し、最後まで生き残っていたあの男は言った。この行為は人間のやることではないのだと、お前は愛に溺れた人間の屑でしかないのだと。そんなやり取りを思い出し俺は微笑んだ。


「…屑でも構わない、いつか星になれるなら、輝いてる?なあ…俺は輝いてる?」


そう問い掛け優しく微笑みお前の白い頬を撫でる。そして口紅の引かれた唇を塞ぎ、壊れないようにそっと抱き寄せてみる。小さく柔らかなお前が俺の腕の中にいる。なんと幸せなことか。お揃いな俺達。これで俺とお前はお揃いなんだ。嗚呼、本当に幸せ過ぎて怖いくらいだ。お前の純白の衣装も今は…


「何、故…?何故だ、…何故なんだよ!!」


俺の瞳から零れ落ちる生暖かい雫は、お前の頬へと滑り落ちて行く。この涙はなんなのだろうか。俺は知らない、俺は俺は…頭が混乱して可笑しくなる。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!待てよ、待ってくれ!!俺はお前に言いたいことが沢山あるんだ。まだしたいことだって、ショッピングだってまた行こう。好きなものなんでも買ってやるよ。あ、ああ…また星だって見に行こう、二人で。また、また…あの日みたいに…!!」


変色していく純白の衣装を握り締め必死になって声をかける。だが頭の中でもう一つの、冷静な人格が。あの頃の俺が泣きそうな顔で言うんだ。酸素に触れた赤は、やがて黒に近づき示す。二人は、俺とお前はもう永遠に一つにはなれないという事実を。いくら泣き叫んでもお前はもう戻って来ないのだと。

辺りが暗くなり、夜空が輝き始める。凍てついた銀瑠璃の星々、燃上がる滅びの煌きよ。俺は結局何がしたかったのだろうか。自分自身でもよく分からない。俺は、この星屑にただ馬鹿みたいに翻弄されて自らあの日々を葬ってしまった。それなのにも関わらず、俺はただお前といたあの日々を、失くした楽園の夢を、忘れられずに縋るように見続けるんだ。


星屑の幻灯
(The Light of StarDust)

とある荒野に死せる女の屍を抱き寄せ、延々とさ迷い続ける亡霊がおりました。愛に狂った彼が手にしたものは結局、女の屍と孤独だけ。何だか報われない話しでしょう?けれどこの話しにはまだ語られぬ物語があるんです。

それは屍となった女の物語。彼女は彼を愛していました。それも狂おしい程に。彼と見知らぬ女が歩いていることを幾度も見ていた彼女は何時も悲しくて悲しくて、誰もいぬ所で一人いつも泣いていました。そんな彼女のすぐ傍には何時の日からか火薬の匂いが真新しく残る約束と、彼女を慰めるように抱きしめる幼馴染みの男が。

男はある噂を耳にしました。この街一番の美丈夫であるアイツと遊んだ女達が次々と命を取られる事件。男は自分の幼馴染みが心配になり、家を訪ねました。

此処まで聞いたらお分かり戴けたかしら?そう、男が彼女を訪ねれば震えながら目を真っ赤にして泣き腫らす彼女の横には一丁の銃。火薬の匂いがするそれは、如何にも使われたばかりのものだったのです。男は気付いてしまいました。彼女が狂ってしまっていることに。彼女が壊れてしまっていることに。

此処だけの話男はこの幼馴染みを愛していました。だから何としても止めたかったのです。男は決意しました。コイツを俺が救うのだ、と。その選択があんな惨劇を生むとは知らずに。

ある男は愛する女の狂気の引き金を引きました。ある女は愛した男の愛憎の引き金を引きました。そしてもう一人の男は終焉への引き金を引き、ある男は終焉の引き金を引きましたとさ。めでたし、めでたし。



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