※「テッテレが冥王娘に運命感じた」の続編。タナトス様は基本カタカナですが非常に読みにくいので台詞以外は普通に表記しまーす


Θは今目の前の光景が信じられないでいる。だってだって何だよこれ。Θの所にいつものようにやって来たのは可愛い可愛い自慢の娘・名前。息子にだってちょっとしか会わせたことがない名前はμとφが呆れるくらいΘが蝶よ花よと手塩にかけて育てて来た。

可愛らしくも可憐でΘに似て儚い美しさを持つ名前は全く外を知らずに育った、筈だった。冥府しか知らない、死者しか知らない、暖かさを知らない、Θが絶対と言う純真無垢な娘。生きとし生ける者全てを等しく愛で、いずれ等しく殺め奪い続ける存在になる為に。だからまさか言い付けを破ってΘの仕事場にある彼岸を映す水晶を通し、生に憧れを抱いていたなんて…


「オ父サン知ラナカッタンダケド?!ドウイウコトナノ、名前!!」
「お、お父様…」
「Θ様、落チ着イテ」
「コレガ落チ着イテイラレルカ!!チョット、アッイテッ!髪、髪引ッパルナッテ!!」
「名前様ガ話セマセン」


μとφにやんややんやと抑えられ、髪をまるでリードとでも言うように持たれてしまった。あーあ、こんなんならやっぱりこの前息子に言われた時に切っとくんだった。何だよもう絶対に髪ショートにしてやる。

身動きが取れなくなったΘは仕方なく定位置であるそれっぽい椅子に座り申し訳なさそうにこちらを見る名前を見た。不安げに揺れる瞳にはうっすら涙が滲んでいて、思わず頭を撫でて許したくなってしまうが、此処は我慢。何たってこれを許したら名前が完璧な不良娘になってしまうからだ。

別に名前がΘとの約束を破っていたことはさして問題ではなかった。本来ならこの年頃になったら反抗期や思春期を迎えて口を利いてくれなくなったり、「お父様の下着と一緒に私のもの洗わないで下さいまし!」位言われてしまうだろうに。しかし名前はそんなこと無かったし、今までだってΘをずっと慕い、反抗だってしない娘に育ってくれていた。そのことを考えればこれくらいどうってことない。

だが、これはない。最近の女の子はませてるだとか、若い子達は不純だったり、世の中腐ってるとか聞いてたけど…


「オ父サン、コレダケハ絶対ニ許サナイカラネ!」
「そんな…お父様!私、わたしっ…!!」
「ダメダメダメダメ、絶対ダメ!!ソンナ男ト交際ダナンテ…」
「お義父さん、娘さんを僕に下さい」
「ワーワー、聞コエナイー。ッテ、オ前ニオ父サント呼バレル筋合イハナイ!!」


先程から名前の横で白けた視線をΘに送り続けている男にきっ、と視線を向ける。名前をたぶらかした忌ま忌ましい張本人。生に憧れを抱いた時点ではそのうち生きとし生ける者すべてを愛する訳だし、なんら問題ないけれど、まさかそれが一人の生者のみに向けられるなんて思いもしなかった。

涼しげな表情で立っている男は知っている。死人しか愛せない特殊な性癖を持っていて、理想の花嫁…つまり美しい死体を探し求めていたさる国の王子。絹のような金髪にΘには劣るけど美しい容姿。こいつにΘの可愛い名前はたぶらかされ、認めたくはないが愛してしまったのだ。

確かに名前は生者ではないし、その上Θに似て勿論美しい。だから惚れない男がいたら可笑しいし、確かにこの王子が花嫁にしたいのも分かる。

だけど父としては何処の馬の骨とも知らぬ男に可愛い可愛いたった一人の娘など嫁にやりたくない。しかもこんな危ない性癖を持った男に預けるなんて言語道断である。こんなやつにあげる位なら息子に嫁に貰ってもらったほうが断然いい。


「トニカク!オ父サンハソンナ奴認メマセンカラネッ!!」
「そんな…」
「(…仕方ない、駆け落ちかな)」


泣きそうな名前を横目にこの馬鹿王子がまさかそんなことを考えていたなんて、Θは思いもしなかった。


脅威の略奪者
何てベタなんでしょう




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