揺れる艶やかな髪にあの死体特有の雪のように真っ白な肌。血なんかまるで通わない冷たい体に全く動くことのない心臓。なのに僕と同じように話し、それでいて本来ならば開かない筈の紫水晶の瞳も開かれていた。

淑やかさを兼ね備え、動作に、言葉に奥ゆかしいさを感じさせる彼女。名前は本当に素敵な女性だった。僕の求めた花嫁とは少し異なり生きているようだが、確かに。正しく彼女は僕の探し求めた花嫁そのものだった。


「私、ですか…?」


困惑気味に僕を見詰める彼女は戸惑っているようで、視線を左右にさ迷わせてから気まずいとでも言うように僕を見た。その落ち着きのある闇を連想させるかのような瞳に思わずぞくりとする。僕は理性が途切れそうになるのを持ちこたえながら笑顔で答える。


「ああ、どうか僕の花嫁になってはくれないだろうか?」
「っ、花嫁…って…」


真っ白な比喩表現ではなく、本当に陶器のような肌が一気にかあっと赤らむ。瞳は先程より忙しなく動いており、目に見えて動揺していることが分かり、そんな彼女を見て自分の口許が歪むのが分かった。


「そう、花嫁。君は僕の理想の花嫁そのものなんだ」


そう言って腕を伸ばしその小さな体をごく自然に引き寄せ腕の中に閉じ込めると、その艶やかな髪を掬い口づける。そんな僕の行動にあからさまに体を強張らせた彼女に気分を良くした僕はそのままするりと彼女の左胸へと衣服の上から手を乗せた。
すると羞恥からか声にならない声を上げ、分かりやすいくらいにびくりと体を震わせた。僕はそのまま耳に唇を寄せていき、そこでそのまま思いっきり甘い声で囁く。


「艶やかな髪も、紫水晶のような瞳も、陶器のように白い肌も」


決して動くことのない心臓も。そう呟いてくすりと耳元で笑い、補足とでも言うように僕は付け足す。勿論、彼女の性格や中身にだって僕は惹かれている。なのにこうして僕の理想の姿であることしか褒めないのは、彼女の性格上こう言われたら不安でしかたないからである。僕が彼女の死体同然の体しか愛していないと思って傷付く。確かに彼女の月のような微笑も素敵だが、僕はそんな彼女の揺れる瞳がひどく愛おしくて堪らない。


「いっ、いけません…私は…」
「君が冥王タナトスの娘だから?」
「え、ええ…分かっていらっしゃるなら」
「関係ないな、」


僕に目を合わせることなく告げる彼女に少しだけむっとする。冥王の娘だから、なんて彼女の言い訳に過ぎないではないか。僕は彼女の顎を悪戯に持ち上げ顔を近付ける。逃げられないようにその細い腰を引き寄せ、目を反らせないようにしっかりとこちらを向かせる。


「冥王の娘は恋をしちゃいけないのか?」
「そっ…ええ、ましてや生者となど…」
「ふーん、なら僕が死ねば君と恋が出来る訳だ」


そう言った途端に目を見開き、彼女の瞳が潤んだのが分かった。ほら、ね。だから嘘は良くないんだよ。僕は抱きしめながら彼女の耳元でそっと囁いた。


「君、僕のこと…好きだろう?」


それもただ僕が好きという訳じゃない。彼女も僕と同じ、彼女は生者の僕を好きなんだ。だから死なれたら困る。そうだろう?
僕の背中にゆっくりと遠慮がちに回った手に思わず口許が吊り上がる。


「…死、なないで、くだ…んっ」


言い終わる前に唇を塞ぐ。死者を愛する僕と生者を等しく愛する君。僕たち似た者同士だったんだよ。生に憧れ僕に焦がれる君は誰よりも、嗚呼本当に美しい。やっと見付けたよ、僕の愛おしい理想の花嫁。


似た者同士
そんな君に運命、感じた




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