「"なんと素晴らしい!""よく似合っているよ""こんな景色見たことないわ!"」
「ありがと、ビー」

振袖を着た私を、ビーグルモードの彼が褒めてくれる。ラジオ音源を継ぎ接ぎしたその言葉は声色もトーンもちぐはぐだけど、言いたいことははっきりと伝わってくる。
ここはアメリカで、お正月の文化が無い。それなのに私がこんな格好をしている理由は、サムとミカエラのとある一言にある。

「日本は年があけると、動きにくい服装でジンジャってところに行くんだよね?」
「(動きにくい…)まあ、間違ってはいないかな」
「私一度インターネットで見たんだけど、キモノっていうの?すごく綺麗だったわ。素敵」
「ナマエ、それ持ってない?」
「着て見せてほしいの」
「え、ええええ」


こちらに留学するときに、手放すのも勿体無いかと持ってきた振袖があるにはあった。でももう着ることなんてないと思ってたし、タンスの奥の奥にしまっていたのだ。勿論断ろうと思ったけど、あんなに目を輝かせた二人を前に嫌だとは言えず。結局鮮やかな赤色をしたそれを引っ張り出すことになった。
…とはいえ、満更でもない私もいた。何だかんだ私も女だ、可愛らしい振袖を見ると心が躍る。髪飾りやら下駄も出してきて軽く化粧もして、何となく気合を入れてみた…のに。

「急遽お呼び出し、なんてねえ」
「"おや、そこの可愛いお嬢さん""私と二人っきりはお嫌?"」
「あ、ううん、そういう訳じゃないの」

言いだしっぺの二人はレノックスさんに呼び出され、新年早々基地へ行ってしまったのだ。謝罪の言葉が書かれた置手紙と、どこかウキウキしたバンブルビーを残して。

運転席に座った私の顔に、心地よい温度の風が当たる。今は肌寒い季節、ビーが気を利かせて空調をつけてくれたらしい。ありがとう、とハンドルをなでるとアップテンポな音楽が流れてきた。
そのままブウン、と走り出す。どこに行くのかは決めてないけれど、彼に任せるのも悪くない。子供のように見えて、意外とロマンチックな一面を持つビーのことだ、粋な場所に連れて行ってくれるに違いない。座り心地が良いシートに深く凭れ、頬を擦り寄せた。

「今年もよろしくね、バンブルビー」
「"こちらこそ""ああ、よろしく頼む""ずっと変わらず君が好きさ!"」






20120103 謹賀新年
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -