頂き物(キリ番) | ナノ




とても気持ちのいい天気の朝。空気もからりと程よく乾いていて、こんな日に干したシーツで寝たら極楽気分だろうと朝ごはんを並べた後全員分の部屋から布団を回収していた時だった。

左近と勝家さんの部屋の前で立ち止まり、マナーとして一応ドアをノックする。
すると中から小さく「………皐月?」と私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
この落ち着いた声音は勝家さんのものだ。私は腕に引っ掛けているシーツを持ち直し中の勝家さんに向かって声をかける。

「勝家さん、朝ごはんの前に布団を洗っちゃいたいんですけど中に入っても大丈夫ですか?」
「…………い……………いや、申し訳ない、…………今、着替えている……」
「あっすみません、じゃあまた後でにしますね。朝ごはんできてますから着替えたら来てください」
「……わかった…」

勝家の言葉に若干の歯切れの悪さを感じながら皐月は部屋から離れようと踵を返した、………が、


「………皐月………」


背後から先程と同じ歯切れの悪い声で呼び止められ、皐月は後ろを振り返る。そこには小さく開けた扉の隙間からこちらを覗く勝家の姿があった。さながら本当に座敷わらしが出たのかと思った。


「か……勝家さん、どうかしましたか?」
「………………ボタン、とやらが………」
「ボタンがどうかしました…………あ。」

勝家さんに真意を問いただす前に私は彼の苦手分野を思い出し、言葉をつぐんだ。
普段よりワントーン低い言い出しずらそうな声で彼は異変を口にする。



「…………………ボタンが、留められない………」


そう言って目線を落とす勝家さんの纏ったシャツは私が選んだ物で、これを買った時はまだ彼が限度を超える不器用だとは知らなかった。加えてここ最近雨続きだった為他の服はまだ乾いていない。

買って貰っておいて着られないなんて申し訳ない…という気持ちで沈んでしまったのか、勝家さんの纏う空気はいつもより重めだ。
だがそれなりの努力はしたらしく留められていないボタンが付いているシャツには結構なシワが出来ている。苦手なりに努力したのだから気にしなくてもいいのに…だがネガティブな勝家さんはこれでは気がすまない。


「私が……不甲斐ないばかりに皐月の厚意を無下にしているのだ…………私が………」
「勝家さん思い詰めないで!!誰だって苦手位ありますから!そうだ、左近!左近に留めてもらいましょうよ!」
「アイツに衣服を着せられる位なら私は寝間着のまま過ごす…!!」


勝家さんの目が本気だ。これは左近に救援要請などすれば私ごと恨まれかねない。

どうしたものか……流石に1日寝間着とうのも……
そこで、はたと思い立った。


「じゃあ……勝家さん、私がボタン留めますよ?」
「………何?」
「勝家さん中に1枚着てるじゃないですか。別に恥ずかしいことじゃないですよ」
「………いや………しかし、ではシャツとやらを脱いで……」
「風邪引いちゃいます!いいからじっとしててください」

有無を言わせず勝家さんのシャツを捕まえ、ボタンを留め始める。
こうするとすぐに大人しくなるんだからやはり彼は押しに弱い男性だ。

シャツのボタンなど留めなれている私はすぐにボタンを留め終えた。勝家さんがやるよりきっと数十倍早い。

最後に勝家さんの試行錯誤によってできてしまったシワを引っ張ってピシッと伸ばし、しっかりしたシャツに仕上げた。


「はい、これでいいですよ。あ……でもやっぱりカーディガン着ましょう。寒い、ですよね?」
「…………ああ…いや、だがそれは自分でできる……大丈夫だ」
「じゃあ、暖かくして朝ごはん食べに来てくださいね。布団だけ貰っていきますから」

勝家さんにそう断りを入れて素早く2つのベッドのシーツを抜き取り腕に絡める。4人分のシーツはやはり量が多い。

「今日の朝ごはんは南蛮風なので手先使うものはないですよ。ではまたー…」
「っ………皐月……」
「はい?」
「その……………あ、りがとう」

尻すぼみな声で言われた感謝の言葉に、私は一瞬ぽかんと放心してしまう。

だが、すぐに勝家さんからその一言を言われたことに嬉しさが溢れてきて自然と顔がゆるんだ。


「はい、どういたしまして!」






ボタンと勝家さん



(あれっ勝家ボタンは留められたんだ?)
(………………ああ。)




テトラポッドE様にて頂きました!ボタン留められない勝家さん可愛い可愛い。

ありがとうございました!


← | →
 top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -