あなたのせいだ



それも全て、あなたのせいだ。

自分が同性愛者だと気がついたのは中一の秋。集団が苦手で部活内でも孤立していた俺に話しかけてきたのは謙也さんやった。はっきり言うて最初は謙也さんは苦手やった。いつも笑ってて俺と正反対の先輩。なのに、好きになるなんて思わへんかった。
自分が同性愛者だと自覚しても前とあまり変わらなかった。むしろその事実はすとん、と俺の中におりてきた。嗚呼そうか、俺、男しか好きになれへんねんなて。小学の頃から女の子が好きになれんかったんはそのせいやったんかて、わかった。…でも同時に少しだけ寂しくなった。
やって、どんなに頑張ってもそんな不毛な恋、実る筈なんてないやんか。
「それ、痛ないん?」
「…?何がすか」
「ピアス。財前めっちゃピアスホール開いとるやん」
じっと耳を見つめてくる瞳に一瞬ドキリとする。ピアスは、俺のけじめみたいなもんや。それに、ピアスを開けると運命が変わるてよく言うやろ?やから俺の運命も変わってくれへんかて。
「別に平気すわ。俺痛いの平気なんで」
「もしかしてMなんか!」
「んなわけないやろ、謙也さんほんまにアホっすわ」
「なっなんやてー!!?」
絶対に、言わない。
だって言ってしまえば、想いを打ち明けてしまえば、今こうして出来ている会話もすべて出来なくなってしまうじゃないか。そんなの、俺にはきっと耐えられないから。だから、俺はそのままでいい。
そう、思ったのにあなたは、
「財前、」
ふと俺より少しだけ高い背がかがみ、顔が近づいた。息がかかるまで近く。
心臓が止まるかと思うほどに驚いた。驚いて思わず謙也さんを突き飛ばす。一瞬見つめあったあと、謙也さんの表情が歪んだ。嗚呼、やってしもた。
「ぁ、すみま、せ…!」
「…いや、俺も悪かったわ。気持ち悪い、よな」
謙也さんは次第に俯いていき、それを見て胸の奥がずきりと痛むのを感じた。
――…違う、気持ち悪いとかそういうんやない。ただ、驚いただけや。ただ少しだけ怖かっただけやねん…!
「ごめんな、財前」
ちゃうねん、ほんまにちゃうんです、謙也さん。そう言いたいのに唇は縫いとめられたかのように動かない。
俺は怖かった。
外側だけ固く塗り固めて誰も入ってこられないようにしていても、臆病者な俺は、逃げて、いた。この恋は実ることはないのだと、諦めたふりをして逃げた。自分自身が変わっていってしまうのが堪らなく怖かったから。
「ほな、俺、帰るわ」
謙也さんが踵を返し帰ろうとする。俺、このままでええんやろか。このままじゃあ後悔するんやないん。心の中で声が木霊した気がした。
「っ待ってや、謙也さん、…待って」
気がついたら、謙也さんにすがり付いてしまっていた。謙也さんの足がぴたりと止まり俺は謙也さんの服をぎゅっと握りしめた。もう、逃げるのは、止める。ピアスを開けて運命変えようとかもう二度と思ったりせんから、だから。
「おれ、謙也さんが、……好き、や」
謙也さんも俺と向き合ってくれますか?


「…やっと言うたな」
「え?」
思わず顔を上げると途端にぎゅっと謙也さんの胸に抱き込まれた。なに?何やねん、どうなっとるんこれ。抱き締められたまま謙也さんの表情をうかがうと謙也さんはこれ以上ないってくらいに嬉しそうに笑ってた。
「ごめん財前、実は財前が俺のこと好きなの気付いててん。俺も好きやったから嬉しかったんやけど、財前に好きや言わせようとしてんけど、そのせいで悩んでしもたんやな…堪忍。」
「え、ちょ、はぁ!?どういうことやねんっ!!?」

訳わからんっ!なに、謙也さんは俺が謙也さんを好きなこと全部知ってたちゅうこと!?てか流石スピードスターや喋るん早いのと俺がテンパってるとので思考が追い付かへん…?
次はそのことでぐるぐるしていると謙也さんは俺の額に唇を押し当ててきた。ちゅ、と音を立てて離れたそれを見た瞬間顔に熱が集まるのを感じた。
「つまり、光がめっちゃ好きやっちゅー話や!」
大好きなきらきらした笑顔を俺に向けてくれて、嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からない感情が溢れてきて同時に涙も溢れてきたみたいで思わず俺はその場にしゃがみ込んだ。
…俺の一喜一憂すべてはきっとあなたのせいなんすよ、謙也さん。
「謙也さん、責任取って下さいね」






2010.7.23光誕より



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