raison d'etre



今日は何故だか無性に苛々していた。こういうときいつも俺の右目はズキズキと痛むのだ。そして、それがよりいっそう俺を不機嫌にさせた。
俺の機嫌に気が付いた後輩…いや恋人は心配そうに俺を見上げてくる。それが少し嬉しい。他の誰でもなく、朝直ぐに俺の傍にきてくれたことが。一番に俺の機嫌に気が付いてくれたことが。でも“嬉しい”といつもと同じ笑みを浮かべ言うことが出来ない。いつもと同じように笑うことが、できない。
右目が、ズキズキと痛んだ。
黙って見下ろしてくる俺に怯えたのか、彼は悲しそうに顔を歪める。
――…嗚呼なんて綺麗。
苛々が少しだけ消えた気がした。そして、代わりに違うものが胸の内に渦巻く。じわり、と体の内側から熱が溢れ俺は口端を上げた。
「光君、いまから少しサボらんね?」
にこりと悪い笑顔で笑いかけ、手を差し出すと彼は、光君は、一瞬躊躇したが俺の手を握り返した。その手は恐怖からなのかはたまた期待からなのか、震えていた。
光君の手を引き校舎裏に引き込むと壁に押し付けて光君の口内を指で犯す。ぐちゅぐちゅと音を立てる程に掻き回し時折喉の方まで突くと苦しそうなうめき声に変わった。
「は、ぁ、んんむ…くるひ、…せんぱ、い」
「しっかり舐めなっせ。そうせんと、痛い思いするんは光君やけんね」
耳を舐めあげると光君の体は面白いくらいにびくんと跳ねた。制服を乱して体中を愛撫する頃には、もう苦しそうなうめき声ではなく熱の籠った声に変わっていた。そして、俺の苛々も消え失せていた。残ったのは情欲と熱と光君への独占欲。
「…先輩…千歳先輩、千歳先輩…!」
すがるように伸ばされた手を掴み指を絡めれば安心したようで表情が柔らかくなる。
「もっと名前呼んで」
光君は、俺だけを見ていた。そう、俺だけを見ていればいいのだ。俺だけを。そして、俺がここにいることを証明して欲しい。光君の頬に手を添え微笑むと光君は顔を歪めた。
嗚呼、そうだね。そげな顔せんとわかっとうよ。俺が異端だってことくらい。わかっているんだ。だから、そんなに泣かないで欲しい。光君にだけわかっていればいいんだ。光君が俺がこの世界に存在しているとわかってくれていれば、それで。
でも、俺は満たされているのに、光君にはそうではないみたいで。光君は悲しそうに顔を歪めたまま俺を見つめ続ける。

「なぁ、先輩、俺は頼りないですか。信用できませんか。…先輩の、支えになれへんのですか」
光君の虚気味な瞳からみずが溢れる。目尻を伝うそれを舌で舐めとると塩の味がした。
「光君、ここは息苦しかね」
息が詰まる。閉塞感に溺れる。俺は薄く開いた光君の唇に自分の唇を押し当て舌をねじ込んだ。掻き回して、舐めとって。小さく漏らす声にまた欲情した。
「好いとうよ」
呪文のように呟くとやっと光君は笑った。





2011.1.6
書いてる自分が途中で迷子になりました…。厨二病千歳が書きたかったのよ。
raison d'etre=存在理由・存在価値
お題提供fisika様


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