61 千里さんと別れ、家に帰ってくると一日しか離れていないというのに何故だか懐かしいような感覚に襲われた。 リビングに行くと義姉さんがいて、思わず身構えてしまう。 あんなことがあってから、俺は義姉さんと普通に向き合うことが出来なくなっていた。やって、俺と目が合ったりすると義姉さんが恵を抱く腕を強めるから、やから俺は義姉さんからの信用を無くしてもてるんやてわかってまうから…。それが辛く悲しい。 「…ぁ、お帰り」 義姉さんは俺に気が付くと小さな声でそう言った。ただいま、と言ったつもりが口元で呟いただけに終わる。アカンなぁ。 ちら、と義姉さんを見ると少し顔色が悪い気がした。手には携帯が握られている。誰かにメールでもしたのだろうかとふと考えたが、それがおかしいことに気づく。 義姉さんて機械音痴やからあんまり携帯を触ることなんてないはずや。…余程のことがない限りは。 「義姉さん、何かあったん?」 何となく聞いてみると義姉さんは伏せがちだった目をこちらに向ける。暫く迷うように瞳をさ迷わせたあと、ゆっくりと口を開いた。 「藍華が帰って来ぉへんねん」 「…藍華?」 いつも心の中で呼び捨てで呼んでいた為か思わず名前を口に出してしまいハッとしたが、義姉さんはあまり気にしていないようで小さく安堵の息を溢す。 それにしても、帰ってきてへんてどういうことやろう。藍華とは生活リズムちゃうし、学年も一つ違うから会う機会なんて家に居るときくらいや。 しかも最近は帰り道に千里さんの家に寄って帰宅が遅くなったり部屋からあまり出ぇへんせいかほぼ会ってなかった。あの事件から無意識に避けてたっちゅうのもあるんやけど。 「携帯も通じひんの」 義姉さんを見ると心底心配しているのか、ぎゅっと携帯を握った。 「今までこんなこと一回もあらへんかったから心配で…!」 アイツ一体何しとんの。恵を苦しめて、義姉さんを心配させて一体何がしたいん?藍華、俺を殺してまでこの世界に来たかったんちゃうの? 「…俺の携帯からやったら出るかもしれへん。連絡取ってみるから番号教えてや」 少しだけ、藍華のことが知りたくなった。義姉さんを真っ直ぐ見据えて言うと義姉さんはその大きな目に沢山涙を溜めて頷いた。 *** 手慣れた手つきで携帯を開くとこちらの世界の姉から着信が来ていた。最近、家に戻っていないからだろうが。 私は小さくため息を吐くと無言で姉のアドレスを着信拒否に設定する。こんなことで、足止めを食らっている場合ではない。私にはもう時間がないのだから。視界の端に白が見えて、携帯をポケットに突っ込むとそちらを見ずに口を開く。 「…私には、あとどれくらい時間が残ってるの?」 「………、藍華、」 「言いたくないなら別にええわ」 どれくらい残っていようが、今することは決まってる。脳裏に黒髪にピアスをいくつも開けたとある少年の姿が思い浮かびギリ、と音が聞こえそうな程に唇を噛み締める。 いつもそう、私の世界を壊していくあの存在。憎くて堪らないのに、周りに守られたあの存在は決して消えてはくれなくて。私が欲しくて堪らなかったものを意図も簡単に奪っていく。 「許さない」 そう呟いた瞬間に携帯が震え着信を教える。私は目を細めると再び携帯を開いた。 2010.9.13 一話の中で視点が変わるのあまり好きではないのですが…今回はしょうがない(´・ω・`) |