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ただ手を引かれ気が付けば千里さんの家やった。今日二回目やな、なんて考えながら未だ繋がれたままの手を見つめていた。そのまま千里さんを見上げるが千里さんと目が合わない。…俺、いつもはどうやって千里さんと目を合わせてたんやったっけ。あぁ、せや、いつもは千里さんがこっちを見てたんやった。俺を見てきたから直ぐに目が合うんや。…じゃあ、今は?千里さん、俺を見らんようにしてるん?

「千里さん、ごめん」

思わず謝ってもた。やってそうやろ、俺ずっと隠してきて、きっと千里さんは優しいからずっと気付いとらんフリしとってくれたんやろ?
千里さんは振り返ると俺を見て顔を歪めた。怒ってるような、悲しんでるようなそんな顔。最近はそんな顔ばっかり見てる気がする。そんな顔して欲しくないんやけどそれをさせているのは俺のせいやから俺は何も言えず口をつぐむ。

「その"ごめん"どげん意味とね」

ふいに口を開いた千里さんに目を見開く。どういう意味やて?そんなん自分が聞きたい。自分でも分からへん。黙っていたら痺れを切らしたんか千里さんは掴んでる俺の手を引っ張ってきた。男や言うても割りと細身な俺は千里さんに抱き込まれるとすっぽりと腕の中に収まってしまう。
俺はぎゅっと千里さんの服を掴むと覚悟を決めて話し出す。ほんまは話したくない。今物凄く怖い。なぁ、お願いやから、千里さん…俺を拒絶したりせんで。ぽつりぽつりと一つずつ話していく。話終わったあと、千里さんの顔を見ることが出来なかった。


「光君、“向こうの世界”とかいうのに帰ってしまうと?」

「帰らへんよ」

それだけはハッキリ言えるわ。やってもうここが俺の居場所やて分かってるから。千里さんの隣が俺の場所やて、分かってるから。千里さんの背に手を回すと宥めるように擦ってやった。ゆっくりと、力が抜けていくのが分かる。

「好いとう、光君のこつほんなこつ好いとうよ。だからこそ、話して欲しかった」

か細い声にズキリと胸が痛んだ。俺は、ずっと千里さんを傷付けてたんやて思ったら痛くて唇を噛み締めた。でも、しゃーなかったんや。だって言えるはずなかったじゃないか。こんなこと、他人に言うたって頭がオカシイ思うか気持ち悪いて思うかのどっちかやって思ってたから。この事を千里さんに話したら千里さんは俺から距離を取るんちゃうかて考えると怖くなったんや。俺は、俺が傷付かない方を選択した。臆病者。千里さんから離れたくないやなんて、ただのエゴちゃう?でも、

「俺も…俺も好きや、千里さんが好きなん。離れたない…離れたないよ…!ごめんなさい、俺、弱いから、千里さんに話してもたら千里さんが俺から離れてまうんちゃうかって…怖かった。怖くてしゃーなかったん。」

「離れるはずなかよ。光君のこつ、信じとうけんね」

千里さんて、凄い。いつも俺の欲しい言葉をくれる。
千里さんは零れた一粒の涙を指先で掬ってそのまま何も扱ってない下ろしたままの髪をすいてきた。俯き気味だった顔を上げて千里さんを見ると千里さんは一瞬驚いた表情をした。

「今一瞬、女の子の姿が見えたばい。もしかして今のが光君の昔の姿と?」

女の子の姿?そう尋ねるとこくりと頷く。そん姿が少しかわええなて思う。千里さんて天然てか…癒し系?

「…かもしれへんな。千里さんは、女の子の方がええ?」

「…光君が良かよ」

「千里さん…ほんま恥ずい人っすわ」

きっと今、俺の顔は真っ赤なんちゃうかな。恥ずかしくてしゃーないけど…でも心は満たされたみたいに温かい。


「千里さん、おおきに」






2010.9.3
こっちが恥ずかしいよ…

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