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『光君、教えて欲しか。何を隠しとうとね。…俺は、俺じゃあ力不足?俺は光君の力になれんとね!?』

先ほど言われた言葉がぐちゃぐちゃに頭の中を掻き回す。思わず千里さんのアパートを飛び出してしまった。手には携帯だけや。まぁ他の荷物は今度取りに行けばええか。

先ほどまで晴れていたのに今は雨が降りそうなほどに曇っている。それは今の俺の心情を表しているみたいでため息をつきたくなった。
千里さんは、いつから気づいてた?…最初から、知ってた?そうだとしたら俺はずっと千里さんを傷付けてたんやないか。心臓が鷲掴みにされたみたいに苦しくなって思わず胸元を掴んだ。

あの後、千里さんはハッとしたかと思うと申し訳なさそうな、泣き出しそうな表情をして謝ってきた。謝らなアカンのは、俺の方なんに。今までずっと千里さんに甘えてた。
でも、言ったらどうなるん。オカンや兄貴は身内やしずっと一緒やったから受け入れてくれたけど、…千里さんは?

「拒絶されたら、嫌やなぁ」

はぁ、とため息を吐いて空を見上げると頬にぽつり、と水の粒が落ちてきた。

―――――――…雨。

真っ黒な雲を見た瞬間どくん、と心臓が波打った。懐かしいような怖いようなよく分からない感情が胸の内に渦巻いて呼吸が苦しくなる。何、一体なんやねん…!!曲がる視界にがくんと膝をつく。
付いた瞬間に何かから視界を塞がれた。それはひやりとした、冷たい手やて気がついたんは背後から声が聞こえてからやった。

『お久しぶりやなぁ、』

「…!?お、まえは…!」

視界を遮る手を退けて振り返ると居たのはやはり俺をこの世界に送り込んだあの男やった。
なんでここにいる?約束の日までまだ2ヶ月もあるというのに。

『ちょお悪いな。予想外のことがあってん、少し付き合ってもらうわぁ。』

にやりと変わらない嫌な笑みを貼り付けて男は俺を横抱きにする。

「予想外ってなんや…って、ちょ、降ろせや!」

『掴まっとかんと舌噛むで』

「待…っ!」

揺れる視界に頭がぐらぐらして思わず男の肩にしがみつく。クスリと笑われた気がして首あたりを引っ掻いてやると痛い!と間抜けな声がした。
なんやコイツも痛み感じるん。そう思いながらふと前を見ると何故か千里さんが立ってた。


「光君!?」

「えぇ!?千里さん何で…」

千里さんは驚いた表情をしたかと思うと男の腕を掴んだ。うあっ!ちょ、揺れる…!揺さぶらんといてや!

「光君に何ばしよっとね!!」

『お前こそ何や!ってアカン、もう止められへん!』

視界がホワイトアウトして頭痛が酷くなる。なんや何回も体験してたら慣れてきたわぁ。ぎゅっと目を瞑り頭痛が引いてから開く。やはり見慣れたあの真っ白な空間やった。

「俺、何回連れて来られてんねん…」

慣れすぎてため息しか出ぇへん。まぁいつもとちゃうのがあるんやけど。ちらりと横を見ると呆然とした千里さん。てか大丈夫なん、こないなとこ来て。そう言う俺も此処がどんなとこなんか知らへんのやけどな。

「な、なんね…ここ、」

『いらっしゃい、まぁ呼んでへん奴もおるけどな』

振り返るとこの白い空間に似つかわしくない真っ黒な男。男は俺達を見るとすっと目を細め口元だけで笑みを浮かべた。
まるで、この雰囲気を楽しんでいるようだと思った。

男は、俺の嫌いな表情で楽しそうに喉を鳴らして笑った。




2010.8.8
ああぁ…スランプだ…



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