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「…嘘やろ…」

窓の外は快晴という訳ではないが十分な程に晴れている。はぁとため息を吐くと外からちゅんちゅん、と何とも間抜けな雀の鳴き声が響いてきた。
今、俺は千里さんの布団の中にいる…。そして横には俺を抱き込んで眠る千里さんの姿。昨日の記憶は曖昧やけどヤってないことは確かや。残念やけど処女ではない(前世では、やけど)からヤったかヤってないかくらいはわかる。

俺の横で気持ち良さそうに眠っている千里さんを起こさないように真上に置いてある学生鞄から携帯を取り出す。良かった、まだ充電あるで!携帯を開くとメール52件、着信29件と表示されていた。やっぱり…。

そう、今日この体で初めて無断外泊ちゅうもんをしてまいました。ちょっと眠くて船漕いでたらそのまま千里さん家で寝てもうたみたいや。
帰ったら怒られるやろな。

再びため息を吐くと千里さんを見る。俺の苦悩なんか知らん顔して寝とる。あ、涎垂れそうや。…起こすの可哀想やけどしゃーないっすわ。

「千里さん、起きてや!」

「…ひかるくん?」

ゆっくりと瞼が持ち上がって千里さんが俺を見る。一瞬目が合ったかと思うと千里さんはへらりと笑って起き上がった。
…なんやこの人。寝起き、冬眠から目覚めたばっかの熊さんやんか。ごっつふわふわしとるで。

「光君が起こしてくれるとは思わんかったばいー。新婚さんみたいとね!」

「…ドアホ」

なんや新婚さんて、単に起こしただけやろ。頭を叩こうとしたら千里さんのスウェットのせいで(でかすぎて手が出てへん)ぽふんと袖が当たっただけやった。
なんやムカつく!なんやねんこのデカさ!!三十センチの差ってこんなにあるんか!!
イライラして膨れてたらその様子が気に入ったのか千里さんは「むぞらしか〜」て言いながら猫にするみたいに撫でてきた。只でさえ寝起きで乱れてた髪が更に乱れる。

「…っ着替える!!!」

千里さんを押し退けて学生鞄の隣に置いてあった制服に手を伸ばす。きちんと畳まれていたそれに不思議に思って千里さんを見るとにこりと微笑まれた。
千里さんがやってくれたんやろか。…てかアイロンまでかけてあるで!?いつの間に…!!千里さん良い嫁さんになりそうや。男やけど。

制服を広げようとした瞬間、ぐっと左腕を掴まれた。思わず制服を落としてしまう。振り向くとなんや神妙な表情した千里さんがおった。どないしたん…?

「光君、昨日…、」

掴まれた腕を見た後千里さんを見上げる。千里さんは瞳をさ迷わせたあと決意したみたいに強い眼差しを向けてくる。

「…――――昨日、斉田さんが来たと」

どくん、と心臓が波打った。
千里さんが言う斉田って藍華のことやろ?なんで藍華がここに?

「…千里さん、何か、された?」

「…光君」

「なんで、アイツ…、千里さんにまで、とか。あり得へん、恵だけやなくて他の人にも…?」

どくどくと心臓が鳴って思考がぶれる。やから千里さんが驚いたように見ていることにも気づかんかった。冷や汗が流れて落ちてくる。
思わず俺の左腕にある千里さんの手を握り締める。自分でも手が震えてるのがわかった。

「ひかる君!!!!!!」

名前を呼ばれハッとする。正気に戻ったあと、千里さんに抱き込まれたことに気がついた。ぐっと肩口に顔を押し付けられ千里さんの心音が聞こえてきた。

「光君、教えて欲しか。何を隠しとうとね。…俺は、俺じゃあ力不足?俺は光君の力になれんとね!?」

千里さんの言葉は優しくて、温かくて胸の内に響いた。
…でも同時に千里さんを巻き込んだらあかんて、心が叫んだ。千里さんに本当の俺を見せるのが怖い。

「…千里さん」

やって、本当の“私”を知ったらきっと貴方は軽蔑する。






2010.8.1
中途半端ですみません…

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