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夢を、視た。

暗い中、ぺたりと壁に触れた手は小さくて“自分”は幼いんだと分かる。でも“自分”というより他人の見たものを間接的に見ているようだった。小さな手が扉の取っ手にかかり扉は小さく音を立てて開いた。

『…っふざけるな!!!!』

開いた瞬間怒鳴るようなその声に一瞬怯む。扉は小さく開いていて光が零れるように漏れている。そっと中を覗き込むと懐かしい前世の父親と母親の姿があった。父親は酷く怖い顔をして踞るようにしゃがみ込んだ母親を見下ろしている。母親は、泣いていた。顔を覆って、泣いていた。

『なんで、あんなモノを生んだりしたんだ…!』

『やめて!あんなモノだなんて…、***は私の娘よ!!あんなモノだなんて言わないでっ!』

『嗚呼、そうだったな、確かにお前の娘だ。…お前が他の男に犯されて出来た、娘だがな』

顔を上げて父親を睨んでいた母親の瞳から涙が零れた。

『あんなモノ、俺の娘じゃない』

そう言い放った父親の冷たい表情が頭から離れない。その冷たさが目から入り込み胸の内まで凍らせるみたいだった。
悲しい?辛い?――違う、ただ冷たい。
扉が遠ざかり次に見えたのは、前世の“私”。何も不安などないように安らかに眠っている“私”。ゆっくりと手が伸ばされ“私”の頬に触れた。暖かい、と思った。冷たい、寒い、助けてほしい。

『おねえちゃん、』

助けて、助けて、おねえちゃん、





「光君、大丈夫?」

はっと目を覚ますと見慣れた教室と、友人の透子ちゃんの姿があった。どうやらうたた寝してしまっていたらしい。
それにしても、今のは…。

「魘されとったけど、」

「ん、大丈夫や。心配かけて堪忍な」

ちらりと時間割を確認すると次は古典。古典嫌いやし、サボろう。そう思いたって立ち上がる。少しだけフラついたのに気がつかないふりをして教室を出る。窓が開いていて風が目の前を通りすぎていくように強く吹いた。思わず目を閉じて立ち止まる。

先程見た夢、怖くて悲しかった。でも、あまり思い出せない。誰かが俺を呼んでいた。
何かを忘れている気がする。
忘れてる?一体何を忘れているのだろう…わからない。


『財前光』


「…ぇ、?」

名前を呼ばれたと共にきたぞくりとした嫌悪感に思わず振り返る。そこには、金色の髪の長い女性の姿があった。だが変だ、何かが違う。心臓が嫌なくらい脈打ち背中を冷や汗が流れ落ちる。だって教師でもなさそうな大人の女性がいるというのに、通り過ぎる生徒が誰一人その女性を振り向かない。

『こんにちは』

再び風が通り過ぎて女性の長い髪をさらっていく。髪がなびいて顔が露になると、再び先程感じた恐怖に似た嫌悪感とはちがうそれが俺を支配した。

『まだ、生きてたのですか。斉田南実さん?』

「…お前は」

『お分かり頂けたようですね』

女性の口元がにぃ、と弧を描く。そう、その女性は前世の私が死んだ時に藍華の隣に立っていた女性、やった。

『はじめまして、天使、です』

瞬間、女性の背後に広がった白に目が離せなくなった。





2010.6.27
何故かファンタジーな展開に…。


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