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急に左手首に痛みが走りそこを押さえた。時々体に違和感を覚える事が多くなった気がする。それは家にいるときだったり、授業を受けている時だったり今のように部活の途中だった。家にいるときは対して困りはしないのだが、学校にいるときには流石に勘弁して欲しい。小さくため息をつきしゃがみ込んで落ちたラケットを拾い上げる。地面に影が差し上を向くと謙也さんが心配そうにこちらを見ていた。

「財前、お前最近そういうの多くなってへん?」

「そんなことないっすわ」

謙也さんいつもは苛つくくらい鈍いくせに(ついでにヘタレ)こういう時だけ感が鋭い。この左手首の痛みは多分最近出てきた傷のせいや。何故か前世で傷付けた傷跡が今この体にも出てきている。あ、因みに昔は右利きやってん、時間は沢山あったからどうせなら左利きになってやろうと奮起した結果今は完全に左利きになってもた…と、そんなことは今はどうでもええ。左手首の傷は前世で俺が自分で傷つけたもの。それが何故転生した今になって出てきたのか不思議だ。

「(…あ、そうや、)」

脳裏にこの体に転生するときに出会った男が思い浮かぶ。今年の秋(多分)あたりにあの男がまた来るんやったっけ。あちらの世界か今の世界か、どちらかを選らばなければならない。

「…はぁ、憂鬱や」
「財前、どないしたん」

「どうしたもこうしたも…ってぎゃああああああっ!!!部長!!?」

「酷いなぁ、叫ぶやなんて。」

いきなり後ろから部長の声がしたかと思うとぎゅうっと後ろから抱き締められた。う、動けへん…!二年になって結構力とかついたし身長も伸びたんに!

「謙也の元気ないて言うから来てみたら元気ないのは財前の方やったんやな」

逃げようと手足ばたつかせてみてもがっちりホールドされてもて無駄やった。半ば諦めため息を吐く。ていうか、部長が俺に絡むの恒例になりすぎて耐性付きつつあるんやけど。
ふと周りを見渡すと謙也さんが俺らを見て慌ててた。その後ろで小春先輩はきゃあきゃあ騒いでてユウジ先輩は小春先輩にいつもの台詞言うてる。千里さんは…、泣きそうな目ぇしてこっち見てる。堪忍な千里さん、後で構ったるから我慢してや。
あまりにもいつも通りすぎて笑いが込み上げてくる。

…あ、そうか。
最初から答えなんて決まってたんや。

「(今の俺の居場所は、)」

向こうの世界に沢山の大切なものを置いてきた。家族も友人もすべて。…それでも、俺は。

「光ぅっ!!!」

どん、とお腹に何かが当たって見ると金ちゃんが抱きついてきてた。金ちゃんは泣きそうな顔をして俺を見上げる。瞬きをすると今にも泣いてまいそうや。

「光が元気ないって謙也が言うててん。光、どこか痛いん?」

「…金ちゃん」

すっと胸の内にわだかまっていたものが少しだけ消えた。次いで左手首の痛みも薄れていて見ると先程まであった傷は何処にも無くなっていた。あの傷は俺の心そのものやったんや。きっと前世に未練がある俺が作り出したもの。

「大丈夫やで」

そう言って笑うと皆ほっとしたような顔をした。いつも心配してくれて、隣で笑っていてくれる。

此処が、俺の居場所や。




2010.6.15

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