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家族皆がまだ寝ているくらい朝早くに起きて身支度をして家を出た。家に居りづらいっちゅうのもあるんやけど、ほんまは千里さんが心配になったから。頭打ってたし、それ俺のせいやし。昨日のことは、もう自分の中でけじめがついた感じや。兄貴も信じてくれたし、多分他にも沢山の人が信じてくれる…はずや。まだ確信はないけどそんな気がする。おん、そうやったらええなぁ。ゆっくり歩いて病院の前にたどり着く。ふと携帯を開くと時間は7時を指していた。この時間やったら多分千里さん起きとるんやないかなぁ、寝てたらどないしよ。
朝なので割りと静かな病院の廊下を歩く。千里さんのいる病室の前に着くと何故か心臓が五月蝿くなった。やばい、めっちゃ緊張してる。よう考えたら俺、千里さんに告白してもうたんやった…!色々ありすぎて忘れてたんやけど!!病室の取っ手に手をかけたまま固まっていると急にその扉が開いた。

「あ、やっぱり光君やったばい」
「ぅえっ!?」

急に開いた扉に驚きすぎて変な声出てもたんやけど、恥ずかしすぎる…!口を手で押さえつつ上を向くといたのはやはりというか千里さんで。目が合うとにこりと笑いかけられる。

「外に人影があったけん、光君かなって思ったと。そげん驚かれるとは思わんかったばい」

「千里さん、人影があったくらいで急に開けんでや。それに看護師さんかもしれへんやろ」

「でも光君だったばい」

優しく腕を掴まれ病室内に招き入れられる。清潔感のある部屋につんとした薬品の匂いが漂っていて独特な雰囲気を醸し出している。病院って不思議や。いや…不気味、やろか。病院て苦手なんやけど何故か関わることが多いなぁ。あ、そういえば今前世の俺の体も病院で眠っとるんやったな。問題が山積みやー…。

「どげんしたとね、元気なか」

急にくしゃりと頭を撫でられてはっと我に返った。千里さんの声が聞こえんくなるくらい考えてたってどないやねん。苦笑しながら千里さんに身を預けていたら優しく撫でているだけやった手が下に降りてきて一瞬耳に触れた。途端にびくん、と体が跳ねる。擽ったいちゅうか反射みたいな感じ。いや擽ったいことに変わりはないんやけど。

「ピアス多かね。あんまり開けすぎたらいかんばい」

「別にええやん、格好ええやろ」

それに前世の時の方が開いてたし。これでも少ない方なんやで。でもあと少し欲しいなぁ、なんて。そういう思考を読み取ったのか何なのか千里さんは顔をしかめて俺の耳をつついてくる。やから擽ったいんやて!あんまり執拗に触ってくるから身をよじって避けると千里さんはにやりて意地悪い笑みを浮かべた。あれ、何や一瞬部長と被ったような気がするんやけど…。

「千里さん、何……ひぁっ!??」

耳にぬるりとした何かが這って先程以上に体が跳ねる。耳を押さえて千里さんから跳び退くと意地悪い顔は何処へ行ったやら滅茶苦茶和む笑顔で「むぞらしかー」なんて言いよった。ていうか今み、みみみ耳を舐め…!!!?

「光君、考えすぎるのは良くなか。気ば張りすぎたい」

「…そんなことないっすわ」

「そんなことがあるけん、言いよると。…俺には言えんことっちゃろ?」

言えないことや。前世とか藍華のこととか、全部言えへん。千里さんは俺を抱き上げると(そない簡単に持ち上げられると男としてのプライドが…)自らはベッドに腰掛け膝の上に俺を乗せる。そのままぎゅうっと抱きしめられ少し安心した。俺って単純なんやろか。

「よかよか、今は聞かんばい。話したくなったら聞かせて?」

膝の上に座ってるから目線が同じくらいになっていて少し新鮮や。いつもは見上げとるし。暫く千里さんを見つめたあとにこくりと頷いてみる。千里さんは何時もと変わらない笑みを浮かべた。
もし、俺が全てを打ち明けたら千里さんはどんな表情をするんやろ。
オカンみたいに抱き締めてくれる?
兄貴みたいに認めてくれる?
それともオトンみたいに軽蔑するん?

お願いやから俺の側から去っていくことだけはせんといてな。




2010.5.20
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