50



藍華は腕を切ったあと、素早く俺の足元にナイフを投げた。カラン、と音がして転がるその刃には血が付いていて。その赤色を見た途端気分が悪くなった。バタバタと忙しい足音がして現れたのはオカンと義姉さん。嗚呼ほんまにタイミング悪い。二人は俺らを見比べた後真っ青になった。俺はその表情を見た瞬間力が抜けてもうて抱えていた恵がずるりと腕から落ちた。ちゃうねん、俺やない。そう言いたいのに言葉は俺の口から出ることはなかった。

「お姉ちゃん!ごめんなさい…!!私が、私が光君を止めていれば…!!!恵君が、恵君がぁ…!!!ごめんなさい…!!!!」

先に口を開いたのは藍華。切った腕を押さえて涙を流しながらすがるように義姉さんを見上げる。義姉さんはハッとして藍華から恵に視線を向ける。視線が恵に定まった瞬間ぐしゃりと顔が歪んだ。怒ったような泣き出しそうな、そんな顔や。すーっと瞳の中に憎しみみたいなもんが浮き出てきて俺は恐怖を覚えた。嗚呼俺を疑うんやな、まぁ当たり前か。自分の息子が怪我してるのを見て尚且つ泣き叫ぶ大切な妹がそう言うんやから。

「ひかる、くん、が?」
「…っちゃう!俺や、ない!!!」

やっとの思いで出た声は掠れていて今俺がどれだけ焦っているかを物語っているようやった。オカンは困惑したように俺らを見比べていて、義姉さんは恵と藍華を見た後俺をもう一度見て泣いた。ぼろ、て涙が出てきて恵の名前を小さく呼ぶ。義姉さんは俺を疑えばええのか、どうすればええのか苦しんでるようやった。義姉さんの涙に罪悪感みたいなもんが胸の奥から溢れてきて、息が詰まりそうや。嗚呼、いっそのこと俺を憎んでくれたなら良かったのに。そうしたら義姉さんは苦しまんかったのに。
義姉さんは恵を抱き上げるとぎゅっと抱きしめる。一瞬ぴくんと指先が動いた。良かった、ちゃんと生きとる。

「義姉さん、俺…」

思わず手を伸ばすとばしんって音が鳴るくらい強く叩かれた。…いや、はね除けられた。俺は拒絶されたんや。

「…ぁ…、ごめんなさい、光君。今は…触らんで」

行き場を無くした手をゆっくりと下ろし俺は立ち上がる。しん、とした空気が冷たくて俺は逃げるようにその場を後にした。階段を駆け登り自分の部屋に入る。ベッドに飛び込み布団を頭から被る。ズキズキと痛む胸のせいで思考は溶けたみたいに働かない。

「はは、拒絶されてもた」

自嘲気味に呟いた言葉は自分で言ったにも関わらず俺の心を鋭利な刃物で突き刺したかのように深く傷つけた。拒絶された。拒絶、されたんや。脳裏には家族全員で笑い合う場面が次々と流れる。幸せやなぁ、でも、今日のこれのせいで全部壊れるんかなぁ。これは、俺が一番恐れたことやった。藍華は多分それを知っていた、だから今回そういう行動に出たんやろうな。藍華の策に見事に嵌まったちゅうことか。
もし、これが学校の友達や部活の仲間との間に起こったことやったらどうなっていたやろう。家族より薄い関係やから、多分…。

「………嫌や…!」

やっと手に入れたのに。やっと自分の居場所を手に入れたというのに。また俺は独りになるん?独りはもう嫌や、独りにだけはなりたくないのに。

俺はぎゅっと自身の体を抱き締めて丸くなった。




2010.5.11
________________
あ、嫌われにはなりません!ですが光君はかなり可哀想な目にあいます。ネタバレはしませんが…兎に角可哀想な目にあいます(大事なので二回言いました←)特に精神的に追い詰められます。そういうのが苦手な方は申し訳ありませんが、この回で閲覧をお止め下さることをお勧めします…!ごめんなさい!でも勿論最後は幸せにしますから大丈夫です(おま)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -