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「…すまんばい、皆席を外してくれんね?」

千里さんの一言と共に少し不審な顔をしながらも先輩らや金ちゃんは出て行った。俺は我に返って千里さんから離れようとしたら千里さんにぐっと引き寄せられてしがみついたまま離れられなくなった。あ、あかん…!よう思い出したら俺ごっつ恥ずかしいことしてんねや!!!
顔中に熱が集まった気がして思わず目の前にあった千里さんの胸元に顔を埋める。

「……本当と?」

きつくしがみついていた筈なのに千里さんにあっさり引き剥がされて顔を上に向けられる。顔同士が近くなって千里さんの表情が読み取れる。不安と期待と少しの熱情。ドキドキする。前世ではそれなりに経験は積んできた筈だった。でも、恋愛は大人になるにつれて冷めてきて“本気の恋愛”が出来なくなっていった。そのせいなのか、今怖くて堪らない。俺は今どんな表情してるんやろ。

「期待しても、良か?信じても良かとね」

千里さんの中学生らしくない大きなゴツゴツした手で頬を撫でられる。その手はまるで壊れ物でも扱うようで。小さく震えているそれに自身の手を重ねた。嗚呼俺も震えてるわぁ、なんて思って笑った。

「おん。俺、千里さんが、好きや」

短く切りながら自分で確かめるみたいに言えば千里さんの目が細められる。至極優しいそれに胸の奥がきゅんとした。嗚呼あかん。俺今男の子なんに、こんなんでええんやろか。めっちゃ乙女やん。思わずため息が溢れる。

「光君俺も好いとう!大好きばい〜〜〜!!」

ぱああっ!という効果音が付きそうなくらい明るく笑い千里さんは力一杯俺を抱き締めてきた。実はかなり苦しいんやけど…まぁええか。自分でもわかるくらい頬が緩んでるのがわかる。嬉しさと共に恥ずかしさが再び込み上げてきて思わず千里さんに擦り寄って首筋あたりに顔を埋めた(目の前にあったし)。
暫くその体制のままじっとしていたらふいに違和感を感じた。え、いや、あの…千里さん?下半身に何か固いものが当たってるのですが…?

「千里さん、あの…」

「光君がむぞらしかけん…」

体を離され向かい合うとお互いに真っ赤になってた。いや、わかるで?男の子の生理現象やて。でも今のタイミングの何処にそんな要素があったん?あれか、俺が千里さんに跨がるみたいに座ってたから!?男の姿の今の自分に欲情してくれたってのは嬉しいような気はするんやけど。いやでもっ……ああああああああああかんっ!!!!!!!!

「お、俺ぜんざい食べたなってきたからっ!買ってくるっすわぁ!!」

「え?ぁ、光君…?」

取りあえず逃亡してみた。千里さんが腕を離していたお陰ですんなりベッドの上から抜け出し扉付近まで行くと、一度振り返ってから逃げた。千里さんがぽかん、て間抜けな顔してたのを思い出して少しだけ笑えた。自販機が設置してある待合室まで早足(走ったら怒られる)で歩きつくと熱い頬を両手で包む。心臓が爆発するんやないかってくらいバクバク音を立てていた。ていうか何やねん、ぜんざい食べたいて。自嘲気味に笑って傍にあった椅子に腰かける。少し落ち着いてきたところでふと周りを見渡す。人影はあまりていうか全然ない。珍しいなぁ。



「ひーかる君」

ぞくり、とした。そのくらい冷たい声。毒を孕んだようなその声のした方をゆっくりと振り返るとやはりというか、見知った人物がそこにいた。斉田藍華、俺の昔の妹。

「…何か用なん?」

「ちょっとだけお話しよぉ?」

くすりと笑うその笑顔に眉間に皺を寄せた。明らかな拒絶。なのにそんな様子を見せてなおも笑い続ける昔の妹の藍華。
嗚呼、歯車が狂いだしたのは、何時やったっけ?



2010.5.4



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