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あー…、ダルい。何で図書委員になったんやろ。確かに図書館の静かな雰囲気とか結構好きやけど仕事すんのはめんどいわぁ。大量の本を抱えて俺の身長の何倍もある本棚を見上げる。四天宝寺の図書館は結構広くて種類も豊富や。でも利用者は少ない。理由はよう知らんのやけど、多分三号館の最上階にあるせいやろな。階段登るのキツイし行くの面倒やし。ほんまに何で図書委員になったんや俺。はよ片付けて部活行こ。遠くで学校のチャイムが鳴るのを聞きながら本を片付けていく。

「…届かへんし」

最後の一冊、あと一冊なのに並べる場所は遥か上にあった。ちらりと横に掛けてある梯子を見ると今は壊れているらしく使用不可の紙が付いていた。誰やねん、こんな上の方に追いやられるようなマニアックな本借りた奴。精一杯手を伸ばしたら届きそうやなぁなんて思って背伸びをして本を直そうとするがそんな場所に限って本同士がぎゅうぎゅうとキツくしまってある。こうなったら意地や!取りあえず押し込んだら終わりやで!

「あっ…!?」

爪先で立っていたせいかバランスを崩して倒れそうになる。つかまろうにも掴まれるのは目の前の本棚の縁だけ。本が落ちてくるかもしれないのにそんなん持てる筈がない。転ける、そう思ってぎゅっと目を閉じたが何時までたっても衝撃はこなかった。その変わりに背中に感じるのは柔らかい人の感覚?目を開けると座り込んではいるものの誰かに抱き留められているようやった。

「光君、あんまり無理すると危なかよ」

こんな珍しい方言を使う人物は知ってる限り俺の中には一人しかおらへん。

「千里さん!」

振り返るとやはりいたのは柔らかく微笑んだ千里さんやった。千里さんはぎゅっと俺を抱き込むと首筋あたりに顔を埋めてきた。ちょ、千里さん髪の毛癖っ毛なんやから擽ったいんやで。

「擽ったい、離してや」

「嫌って言ったらどげんすっと?」

どないするって…、どないしよう。
千里さんと体格差有りすぎるし引き剥がせるはずないし。悩んでたら後ろから堪えたような笑い声が聞こえた。

「光君むぞらしかね。そんなに考えんでも暫くしたら離しちゃるばい」

何なん、人が真剣に悩んでたんに。千里さんが目を合わせようとしてきたから意地悪で目を反らしてやったら千里さんは慌て出す。

「光君無視は嫌と!こっち見て欲しか!」

眉をハの字にしてしゅんとする千里さんに思わずきゅんとした。あかん、それは反則やで。めっちゃ可愛ええ!にやけそうになる顔を押さえつつ体を反転させて千里さんと向かい合う。

「冗談、無視するはずないやろ。て言うか、はよ部活行きたいから退いてや。…いや千里さんも一緒に行こ?」

「行く!行くばい!」

目を輝かせて何度も頷く千里さんになんやでっかい弟…いや犬を飼っている気分になってきた。千里さんが犬やったら今はち切れんばかりに尻尾振ってるんやろなぁ。薄く笑って立ち上がる。そして、はよテニスやりたいなぁ何て考えた…時やった。


「……っ!!?光君危なか!!!」

急に視界が反転して、暗くなる。何か重いものが降ってくるような激しい音が響き思わず目を固く瞑った。暫く目を閉じて、薄く開けるが目の前は真っ暗やった。…千里さんが、俺に覆い被さっていたから。俺らの周りには分厚い本が沢山散らばっている。少し床の埃が舞っていてどれだけ沢山の本が落ちてきたかを物語っていた。
乗っかっていた本を退かし、起き上がる。だが、違和感があった。

「―――…せんり、さん?」

ずるり、と崩れるように倒れた千里さんの頭に触れた瞬間ぬるりと滑る何か。手を広げると、赤く染まっていた。それは千里さんの頭からも止めどなく流れていて。
千里さんの血や、て分かった瞬間俺は自分でも血の気が引くのがわかった。

「千里さん!!!!!!!?」

閉鎖された図書館の中で俺の声が木霊した。




2010.4.30

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