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「千歳の奴、財前大好きやんな」

放課後の部室、ほとんどの部員が帰宅したので部室内は部長と俺の二人だけ。何で俺が残ってるのかというと、時々遅くまで残って自主練したり部誌書いたりしとる部長のお手伝いしとるんや。自主練はたまに部長無茶し過ぎるから見張りも兼ねて。ていうか部長今のままでも化け物みないな強さなんにこれ以上強くなってどないするん。…まぁ、それが部長のええところやからしゃーないんやけど。

「…そっすね」

部長は部誌に視線を落としたままや。俺も携帯弄ったまま部長の問いに答える。興味ないフリしてるけど内心ビクビクしとる。部長鋭いから気付かれたんかと思った。小春先輩は薄々気付いとるんやろうな。

俺が、千里さんを好きやってこと。

「珍しいなぁ、財前が誰かに懐くやなんて。俺らん時は慣れるのに1ヶ月くらいかかったやん」

「別に、普通っすわ。前に熊本行った時に知り合ったんで警戒薄いだけやないん、多分」

「多分って。自分のことやで」

くすりと笑う声と共にカシャン、とペンが転がったような無機質の音がして顔を上げた。案の定部長はペンを落としとった。ペンが俺の足の近くに転がっている。部長が立ち上がろうとするのを見て俺はペンを拾い上げ部長に向ける。
部長の翡翠色をした瞳と視線同士が重なる。確か昔カラーコンタクトでもしとるんちゃうんかって思って聞いてみたら違うって言ってたんを思い出す。まぁカラーコンタクトでこの色は出せへんのやろうけど。ええなぁ、めっちゃ綺麗。

「どないしたん?財前」

「え?嗚呼、すみません」

気がついたら部長をガン見してたみたいで部長は不思議そうな顔をしてた。思わず俯くと部長にペンごと手を掴まれる。

「…財前だけや」

「え?」

部長はふ、と綺麗に笑うと俺の頭を撫でた。

「謙也から謙也の髪の色について聞いたやろ」

謙也さんの髪色が地毛やっちゅうことやろうか。謙也さんと二人で帰った時のことを思い出して俺はこくりと頷く。

「謙也が言っとったんやで。髪の色を軽蔑や興味以外で見てくれたんは財前だけやて」

「…そうっすか」

「俺も謙也も普通とちゃう容姿しとるせいで今まで嫌なこと仰山あってん。やから財前みたいな子おってくれるのが嬉しいんや。やから財前は特別やねん」

褒められとるんやろか。なんや慣れてへんからむずむずする。そんな気持ちが伝わったんか部長は俺を見て笑った。部長はよう作り笑い浮かべてるんやけど(そういう立場におるからしゃーないんやけどな)、最近は俺に本物の笑顔を見せてくれるようなった。作り笑いよりは断然ええから、別に構わへんのやけど…つい最近のことや。部長が俺のこと他の人達とは違うような見方をしてくる時がある。はっきり言うなら千里さんが向けてくるそれと似ている。
気のせいとかやとええんやけど。自意識過剰過ぎてるだけやとええな。

「勿論、俺にとっても」

掴まれたままやった手を再び強く握られる。掴まれた箇所から部長の熱が伝わって一瞬やばい、て思った。何がやばいんか分からんけど危険信号みたいなんが発してる感じ。

「…せやから、たとえ謙也でも譲られへんねん。謙也には悪いけどな」

「部長…?」

「堪忍な財前、ほんまにごめん」

ぐっと部長の顔が近づいてきて、逃げる間もなく口づけられた。思考が完全にショートする。氷帝と練習試合があった時にされた悪戯みたいなのとは違うそれ。嗚呼忘れてた、俺の悪い予感はよう当たるんやった。

「…ふぁ、んん…んっ…!」

反論しようと口を開くも手と頭をがっちり固定されてて無意味に終わった。それどころか部長の舌で口内を貪るようにかき回され力が抜けていくのがわかった。…ちょっ、中学生の癖に何処でそないなテクニック身に付けてきてんねん!
暫くして、やっとのことで離れると唇同士でと銀色の糸が引いた。それが妙に厭らしく感じて思わず赤面する。最悪や…中学生にリードされてもた。睨み付けるように部長を見ると部長はにこりと笑い俺の唇を指でなぞった。

「財前、お前が好きや」

嗚呼やっぱり。
何なん、ほんまに。俺から一体なんのフェロモン出とんねん。
ニコニコ笑う部長にため息を吐きこれからの生活が大変になりそうやなぁて頭の隅で思った。

あーぁ、出来れば杞憂であって欲しかったわぁ…。




2010.4.28


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