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無理だと思ったら直ぐに止めてしまう、諦めてしまう。俺の癖や。そして失ってから後悔する。今度はそんなことないようにしようて毎回考えるのにちっとも学習せんねん。…それでも俺は臆病者やから一歩踏み出せずにいる。

「…あれ、これって」

左手首にある横長に伸びた傷跡。傷付けた覚えはないんにどうしてこないなとこにあるんやろ。その傷に指を這わせるとふとあることに気が付く。此処、前世で傷付けたとこやなかったっけ?深く傷付けたから残ってしまったあの跡。この傷はそれに酷似していた。思わず部屋に置いてある鏡を覗き込むが写った姿は斉田南実の姿やなくて財前光の姿。あかんなぁ、もう慣れたつもりやったんに財前光の姿を見て一瞬驚いてしまった。ため息を吐き、ふと携帯を見ると赤いランプが点滅している。あ、電話や。そう言えばマナーモードにしてたんやっけ。ベッドに寝転んだまま携帯を開くと千歳千里の文字が表示されていた。千里さんから電話?珍しいこともあるもんやなぁ。あんまり千里さんからメールや電話は来ない。俺からする方が多い。ていうか散々メールだの電話だの言ってながら自分からは全然して来んやんか!通話ボタンを押して携帯を耳に押し当てると聞き慣れた声が電話越しに聞こえた。

「―…光君?」

「俺の携帯なんやから俺以外出る筈ないやろ」

寧ろ出たら怖いやろ。誰やっちゅう話やで。

「…」

「千里さん?どないしたん」

いつものような明るい声が聞こえない。ほんまどないしたんやろ。何かあったん?黙り込んだ千里さんに少し違和感を覚える。そない弱々しい声、俺は知らない。

「千里さん今どこにおるん」

「学校近くの公園ばい」

「じゃあ今から行ったりますから動かんといて」

小さく「うん、」と言う声が聞こえて俺は携帯の電源を切るとそれをポケットに突っ込む。マナーモードは解除したから多分また電話かメールが来たら分かる筈や。一応オカンに一言告げて外に飛び出す。何でかわからんけど、千里さんのあの悲しそうな声を聞いたら居てもたってもいられなくなった。何でこないな気持ちにならなアカンの?こないな気持ち、知らん。

「千里さん…!」

公園に着くと桜の木の下に千里さんは立っていた。名前を呼ぶとゆっくりと振り返り、此方を見て儚く笑った。

「本当に来てくれたばい」

「どないしたん、千里さんいつもとちゃうやんな」

がむしゃらに走ったせいで乱れた息を整え千里さんの前に立つ。ふわりと強めの風が俺らの横を通り過ぎ桜の花弁を拐っていった。儚く笑う千里さんとその周りで舞う桜の花弁。不謹慎やけど綺麗やなぁて思った。

「…見えんと」

耳を澄まさないと聞こえないくらい小さな声で千里さんはそう言った。見えない。何が?なんて聞けない。俺は知ってるから。

「今日病院で言われたたい、多分もう右目は見えんとなるって。神経が、死にかけとるらしいばい」

千里さんの右目は俺を見ているけれど見ていなかった。俺を見ずに何処か遠くを見ているようだった。それがとても悲しいと思った。もう一度千里さんの名前を呼ぼうと口を開きかけた時腕を掴まれ引き寄せられた。ぎゅっと千里さんの腕の中に抱き込まれて身動きが取られんくなる(なんやデジャヴ…)。あまりに強く抱き締めてくるから慰めるために千里さんの背中を叩いてやった。
多分俺もこうなるって思うから。目が見えんくなって、それを知って一人でおるんは怖い。自分の大切な何かを無くすのは怖いことやって、俺は身を持って知ってるから。

「光君は俺の目が見えなくなっても傍にいて欲しか」

「…おん」

「俺は弱いから、時々慰めてくれると嬉しか」

「おん、ええっすよ」

暫く千里さんの背中を叩いてると千里さんは伏せていた顔を上げて何時ものようにへらりと笑った。

「やっぱり光君が好きばい、」

…ドキドキする。嗚呼わかってもた、ていうか確信した。色々理由付けて今まで否定してたけどもう無理、限界や。

「(俺、千里さんが好きみたいや)」

賭けは俺の負け。でももう少しこの気分を味わいたいからまだ言うたらんで。そう思うのは、我が儘やって思う?




2010.4.25
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はい、砂糖吐きそうですねわかります(^q^)書いてる私が砂糖吐きそうですから(爆)そろそろシリアスに入りたい…!!
そして切実に今文才欲しいです←


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