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謙也さんに手を引かれながら走り、気がつけば校舎裏まで来ていた。此処に来たのは小春先輩の事件以来やなぁなんてぼんやり考えてたら急に謙也さんが止まり此方を振り返った。朝やから校舎裏は薄暗くて、何時もキラキラしとる謙也さんの髪が暗くなって見えて珍しい。

「光…!!」

謙也さんの表情がくしゃりと崩れる。泣き出しそうやった。そのままぎゅっと俺を抱き締めると肩辺りに擦り寄ってきた。首に髪が当たってくすぐったいんやけど。

「謙也さん、部長と仲悪いん?…それとも俺が何かしたんすか」

「ちゃう!光は悪ないねん!白石とも仲が悪い訳やない」

いやどう見ても俺が原因やったやん。俺が居るといつも部長と謙也さん睨み合っとるし。俺、二人が仲悪くなること何かした覚えないねん。言うてくれな分からんで。

「…光、聞いてくれるか?光になら話してもええて思うねん」

謙也さんが体を離してじっと俺を見つめてきた。しゃーないし、気になるから小さく頷くと謙也さんはほっとしたように笑い壁を背にに凭れた。俺も謙也さんの隣に移動し壁に背を預ける。

「俺と白石は幼なじみやねん。家同士が医者と薬剤師ちゅーことで仲が良くてな、何かある度に白石と遊んどった。」

謙也さんの声は真剣で。俺は少し低めのそれに耳を傾けた。


『――――…
白石と初めて会ったんは幼稚園やった。アイツ幼稚園の時から真面目で完璧やったねんで。文字書くのも読むのもめっちゃ早かった。凄い奴やったから、皆白石を尊敬してた。しかも性格もええから友達とかも仰山おってな、子供ながら嫉妬した。でもそれ以上に白石が好きやったから気にならんかった。いつも隣に白石がいて肩並べて立ってたからな。でも気付いてもた。親がな、どうしても比べるんや。蔵ノ介君は出来るのに、てな。うちの子はどうして出来が悪いんやろて言われた時はほんまにショックやった。ずっと親にそう聞かされて白石と仲良かったはずなんに俺、何時しか白石の前でほんまの笑顔出来んくなっとった。好きやった白石に嫌悪感を抱く俺が嫌で堪らんかった。離れようて、何回も考えた。やけど、さっきも言うたけど白石めっちゃええ奴やねん!やからしょうがないんやて言い聞かせて友達でおった。此れからもずっとその関係でええて思ったんやで。小学校は離れてたんやけど中学で一緒の四天宝寺に入学して毎日顔合わせても俺はそのスタイルを崩さんかった。それで良かったんや。…それでな、その、一年の時にな、好きな子出来てん。めっちゃ好きな子。あ、今はもう吹っ切れてんで。毎日目で追ってたら、気付いた。その子白石が好きなんやて。それから抑えようにも止まらんかった。気がついたら、白石に向かって一番言ったらあかん言葉使ってた。“嫌い”やなんて、何で言ったんやろ。そんなこと思ってなんかあらへんかったのに。…あの時の白石の表情が忘れられん。そしてあんときから俺と白石の関係は崩れたまんまやねん、表面上では普通の友達なんやけどな。』

謙也さんは掌をギリギリと音が聞こえそうなくらい握り締める。俺は、言葉が出なかった。部活で見てる限り、部長と謙也さんは普通の友人同士に見えたからや。そんなことがあったんや。

「謙也さん…痛い?」

俺は謙也さんの握り締めた拳を少しずつ開き、そしてそのまま指を謙也さんの心臓のあたりに持っていく。どくどくと謙也さんの心臓が脈打っていた。

「痛い」

「…なら、部長に会わなあかん。会ってちゃんと話さな駄目っすわ。逃げたらアカン」

「光、俺…白石に言えるやろか。謝れるやろか、白石に、分かって貰える?」

「大丈夫や、白石部長っすよ。分かってくれる筈や。それに部長のことは、謙也さんが一番知っとるんちゃいます?」

「おん…!」

「謙也さんは、大丈夫や」

ボロボロと涙を溢す謙也さんの頭を包み込むように抱き締めると謙也さんの手が俺の背に回ってきてぎゅっと制服を掴んできた。

「光、堪忍な。今だけ、泣かせてや。泣いたら、いつもの、俺に戻るねんから」

「…しゃーないすね」

それから一限目のチャイムが鳴っても謙也さんは泣き続けた。一生分の涙を使い果たす勢いや。泣き終わったら、何時もの明るい謙也さんに戻って下さいね。アンタに泣き顔は似合わへんで?






2010.4.11
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