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部長の左手は包帯を巻いていて熱は伝わらない筈なのに何故か掴まれたその場所だけ熱を持っていて。いつになく真剣な部長の目に射ぬかれてしまうんやないかって思った。

「謙也を見とったん?」

ギリっという音がしそうなくらいに強く掴まれて自分でも眉間に皺が寄るのがわかった。痛かったけど今振りほどいてはいけんような気がしてただ部長を見ていた。

「…答えてや」

部長の顔が近づいてきて目がすっと細められる。瞳の奥にどす黒い感情みたいなんがある気がして、驚いた。

「ちゃいますよ。謙也さんを、見てたんちゃう」

真っ直ぐ部長の目を見て答えたら一瞬部長の瞳が揺らいだ。動揺とかとはちゃう、悲しい感じのそれやった。いつもの部長はそういうのを綺麗に隠してしまうから面白いて思ってもた。なんや新しい部長を発見したわぁ。

「そうか。…財前堪忍、俺どうかしとったみたいや」

にこりと笑った部長はもうさっきの影の欠片も見せへんかって、ちょっと残念やて思った。

「別にええっすよ」

「はは、財前はええ子やなぁ」

「何すかそれ」

ぐしゃぐしゃと頭撫でられて髪型がぼさっとした感じになってもた。何してくれるん、これセットすんの大変なんやで。あ、ワックスは使ってないで。俺スプレー派やねん。スプレーやと時間かかるんやで!…まぁ部活始まる前にセットし直せばええか。

「ざーいぜん」

髪を弄っていると隣から間延びした部長の声がした。なんやねん、そんな声したって可愛いないでー、部長。

「何やねん、ぶちょ……んっ!」

部長の方を振り向いた瞬間視界が狭まった。何やこれ、目の前に部長の…睫毛?ていうか目を閉じた部長がドアップに…?それと同時に唇に柔っこい感覚もあって。ぇ、ええええええ!!!?思わず部長を突飛ばして唇を手の甲で擦る。…キス、されてもた。部長はめっちゃいい笑顔しとってなんやムカついた。

「ご馳走さん、財前唇柔っこいなぁ。女の子みたいやで」

「はっ?ぇ、ちょっ!何するんやぁぁぁあ!!!」

「何ってキスや。接吻」

「ぎゃあああああ!!!!!!!」

何やねんっ部長は男にキスする趣味があるん?ていうかもしかしてそっちの人ですかそうなんですか。四天宝寺はホの付く集団何ですかぁぁあ!これは流石に『しゃーないすわ』では片付けられへんのやけど、どないすればええんですか。取りあえず誰かに見られてたらアカン思って周りを見渡すと日吉が真っ青になってた。…見ちゃった感じですか。

「あ、うん、お前がどんな奴でも俺は大丈夫…だ。」

やめてやぁぁぁ!そんな自分に言い聞かせるみたいな言い方!虚しくなってきたやろ、どないしてくれるん俺のこの気持ちっ!

「もう部長嫌いっすわ」

「蔵りんショーック」

「何すか、それ。ごっつムカつくんすけど。ていうかそういうの部長の好きな人として下さい」

「大丈夫や、俺は財前好きやで」

「冗談は止めてや」

ため息をついた後膝を抱えて踞る。これ以上部長に付き合ったら今日の分の体力全部使いきってしまう気がして俺は持ってきていたiPodで耳を塞ぎ目を閉じた。

「…冗談なんかやあらへん」

だから、最後に言った部長の言葉と俺らを見ている視線に気がつかなかった。






2010.4.8

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