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空きのコートに立ち向かい側にいる日吉を見る。日吉もこちらを見ていて、今から日吉とテニスやるんだと思ったら高揚でドキドキと心臓が波打った。俺はテニスの試合前のピリッとした緊張感がめっちゃ好きや。

サーブは日吉から始まった。飛んでくるボールに意識を集中して打ち返す。周りにだらけてた一年が固まって此方の試合を見ているのももう気にならない。多分日吉もそうや。俺はふと笑みを浮かべると少しだけ回転をかけたボールを打ってやる。ちょっとした意地悪やねん。あのくらいの回転やったら日吉はロブ上げてくるんちゃう?

「ぐっ…!」

日吉の表情が歪んでロブが上がる。来るて思ってたわぁ。まぁ来んでも大丈夫なくらいの回転やったけど。上がったボールを日吉のいる位置とは逆方向に打つ。

「15-0!!」

審判の声が聞こえ、日吉は力なく転がったボールを見たあと俺を見て悔しそうな顔をした。

「まぁしゃーないっすわぁ」

ラケットをくるりと回した後、先を日吉に向けぺろっと舌を出して挑発してやった。テニスは体と頭を使うスポーツやねんで?体はともかく頭脳戦では負けへん。

「…下克上だ」

「下の者が上の者を押し退けて勢力をふるうこと?なんや、日吉は俺より弱いんちゅうんか。」

くく、と笑うと日吉の闘争本能に火がついたのかギラギラした目で睨んできた。そう来なオモロないやんなぁ!俺をもっと楽しませてや?

それから、あんまり覚えてへん。テニスに集中し過ぎると俺周り見えんようになるしな。もしもを考えて無我や朱雀翔は出してないで。バレたら怖いし。

「ゲームセット、ウォンバイ財前6-1」

気がついた時には試合終わってた。四天宝寺の同学年の連中が俺が勝ったことに興奮して盛り上がってる。まぁここまで俺と日吉がお互いに全勝無敗やったからどっちが強いか気になってたんやろ。
前のコートには汗だくになった日吉がおってめっちゃ悔しそうにしてた。でも1ゲーム取られてもた…。日吉時々ごっつ凄い瞬発力で返してきよって驚いた。次試合するときどれだけ強くなってるか楽しみや。

「凄い…!財前君、強いんだね!!日吉は氷帝一年の中でも一番強いのに」

「…次は俺が勝つ」

流れる汗を腕で拭った時、審判をして貰っていた鳳が俺の所へ飛んできた。俺の腕を取ってぶんぶん振りながら笑っとる。日吉も薄く笑っててなんや何か気恥ずかしい。こういう友達、四天宝寺におったらええのに。

「おおきにー。日吉も強かったで。でも後半めっちゃバテとったやん」

「演武テニスは体力使うんだよ」

「演武テニス?日吉のあの変なテニス、演武テニスて言うんや」

「変って言うなよ」

「日吉は武道に基づいた形をテニスに取り入れてるんだって」

「武道?凄いやん日吉」

褒めてやると日吉は赤くなってそっぽを向いた。なんやコイツ、ツンデレやツンデレ!可愛ええやっちゃな。ふと時計を見ると部長に言い渡されていた休憩時間を指していて、俺らは一緒に休憩を取ることにした。あ、休憩=昼食時間やねんで。腹減ったわぁ。
途中荷物を取りに日吉と鳳と別れる。日吉達はバスの中に飲み物とか置いてるらしいし。バスの中にクーラーボックス的なものが設置してあるて言うてた。ええなぁ流石金持ち学校。

鞄を置いてる部室の扉を開くと先輩らが居った。部長は此方を見てにこりと笑う。謙也さんも飲み物手に持ったまま近づいてきた。何で居んねん(別に嫌いとかやないで)。この二人に捕まったら話長そうや、早く日吉達と話したいんに。俺は先輩らに小さくため息を吐くと自分のロッカーへ向かった。




2010.4.6


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