30 対戦相手のボールを難なく打ち返しながら周りのコートから響く足音やボールの跳ね返る音を聞く。此処は一年に与えられたコートやから二、三年みたいにいい音出す(俺、絶対音感持ってんねん)奴はおらんて思ってた。でも両側の氷帝の一年二人からなんやええ感じの音が聞こえてきてオモロイ。 「ゲームセット!ウォンバイ財前6-0」 あー、ダルい。さっき何故か樺地とリアル鬼ごっこして体力ないんや。まぁ金ちゃんとするよりは楽やねんけどな。 対戦相手と握手をしたあと、左のコートにいる奴を見る。なんやアレ。キノコ…?ていうかオモロイ戦い方するなぁ、でも無駄な動き多すぎて体力ついてってへんで。持久力高めるか無駄な動きを無くすか、もしくは両方か。あかん、こいつとテニスしたい!じっと食い入るように見ていたらキノコはくるりと此方を振り向いた。前髪に隠れててわかりずらいけどごっつ怖い目で睨まれた。 「…何だよ」 「いや、オモロイ戦い方やしてはるんやなぁ思って」 素直に答えるとキノコは一瞬目をぱちくりさせたあとふっと笑った。雰囲気大人っぽいなぁて思ってたんやけど、笑ったら年相応やな。 「コート空いたら試合せぇへん?」 意地悪い笑み浮かべて誘ってみたらキノコもにやっと笑って頷いた。時々視線感じてたし、多分向こうも気になってたんちゃう?俺も個性的ちゅうかねちっこいテニスしとるてわかってるし。 「日吉っ!」 後ろから声がしたと思うと俺の後ろを見てキノコが顔を歪めた。なんや、何かあるん?振り向いてみると銀髪の…犬っぽい長身の少年がおった。人の良さそうな笑みを浮かべてキノコに手を振ってる。こいつは確か、俺の右のコートで試合してた奴やんな。サーブだけやたら上手いやつや。 「日吉、勝った?」 「当たり前。鳳も勝ったんだろ」 「勿論。」 ニコニコ笑う鳳?にちょっと距離をおいてるキノ…いや日吉。嗚呼苦手なんやな、て思った。俺も謙也さんと千里さんで慣れてなかったらいい人&天然は苦手部類やねんからな。 「あ!えっと、貴方は?」 「え?ああ。俺は財前光や。よろしゅう」 「鳳長太郎といいます。こちらこそ宜しく!…ほらっ日吉も!」 「…日吉若だ」 日吉と鳳は同い年らしくてめっちゃ仲良さそうや。ええなぁ、俺はテニス部の同学年で仲ええやつおらんし。ていうか藍華信者ばっかやから近寄りたくない。二、三年が試合しとるコートを見ると藍華が先輩らを応援してた。お前、マネジの仕事はどないしてん。多分してないんやろな。いつものことやけど。あとで部長に起こられてまえ。 はぁとため息をつくと二人がそれに気がついて俺を見てきた。 「どうかしたの?」 「あぁ、アイツ…マネジの仕事またサボってんな思って」 「マネジなのにか?」 「一応な。ミーハーやねん。でも上手く隠しとって皆ほとんど気づいてへん。仕事せんなら辞めてまえばええのに」 あっアカン!この二人に愚痴ってどないすんねん!ああああぁ自分が嫌や!!ちらりと二人を見ると二人共に眉を潜めて藍華を見ていた。あーぁ、いらんことしてもたかなぁ。少し反省しつつコートを見ると先輩らが居ないせいか皆だらけてて(特に四天宝寺の藍華信者。藍華居らんからやな)コートが空いていた。試合出来る状態や。しかも先輩らおらんし、向こう側からこっちは見えんような位置や。そのことに自分の口端がつり上がるのがわかった。久しぶりに、本気でテニス出来るんちゃう? 「なぁ日吉…試合しようや」 2010.4.5 |