01 私は、最近二十歳になった。好きなものはパソコン。取りあえずパソコンさえあったら生きていけるし。嫌いなものは人混みと魚の内蔵と騒がしい場所と…妹。いや、嫌いっていうか苦手?まぁ姉の心情を察してよ。ていうか今まさに嫌いになりました。だって――… 『可哀想な奴やなぁお前さんは。妹に殺されたんやでぇ』 目の前にふわふわと浮かんでいる男は眉を下げ此方を見ている。だが全然【可哀想】なんて思ってる顔じゃない。 「何、意味がわかんないんだけど」 私のイライラはピークだった。だって今日私はいたって普通にベッドで寝たし、今もちゃんと感覚があるし、夢じゃないことくらいわかる。て言うか夢だったらかなりリアルな夢だと思う。 『お前さんの妹はなぁ、自分が望む世界に行く変わりにお前さんを犠牲にしたんやでぇ』 間延びする声が真っ白な空間に木霊する。それは不気味さも含んでいて、思わずその場から一歩下がってしまった。 真っ直ぐに男を見つめると男はくつくつと嫌な笑いをし、私を指差した。 「どういうこと?」 『簡単に言えば、お前さんがあの世界で生きるはずだった寿命を使ってお前さんの妹はある世界にトリップしたんやな』 「ある世界?」 寒気が止まらない。冷や汗が背中を伝うのが気持ちが悪くて、私は自分の体を抱きしめる。 自分でも体が震えているのがわかった。私が死んだ?冗談じゃない。夢なら早く覚めてほしい。 『“テニスの王子様”って漫画を知っとるかぁ?』 テニスの王子様?それなら知っている。私も愛読していたし、何より妹が好んで読んでいたから。でも、それは漫画の筈だ。 『世界は無限に広がっとるんやでぇ、無限になぁ』 じゃあ、私の妹はその世界に行きたくて私を殺したっていうの?私の此れからの人生を奪ったと? 俯いていた顔を上げると男が直ぐ側まできていて、冷たい手が私の頬をゆっくりと撫でた。 「わた、し、まだ生きたい…」 『せやろなぁ』 「まだ、まだ死にたくない!」 死にたくない、死にたくない死にたくない!まだやりたいことが沢山ある。だってまだ二十歳だよ?この間やっと成人式を迎えて、就職先も決まって、楽しい生活が始まる筈だったのに。 『…ええで?』 男が真っ白な床に降り立つ。足をついたその場所から波紋が広がって世界が歪んだ。 『生きたいんやろ?ええよ、生き返らせらせてやっても』 あ、生き返らせるていうんはちょい違うなぁ。そう言って男は再び嫌な笑みを浮かべた。でも私にはそんなものどうだって良かった。今ある可能性を必死で掴もうとしていたから。 『お前さん、オモロイしなぁ。でも二つ条件がある』 「条件…?」 『一つ目は傍観者であること、や』 世界に干渉しない。原作を崩さない。これは試合の結果とかやな。あ、でも原作に書かれない先の未来は自由にしてええで? 『二つ目は自分が異世界の人間や言わんこと、や。』 「そんなことでいいの?」 『おん。あ、お前さんオモロイから一つだけ願い叶えたるでぇ!』 10.3.2 |