25 「光君、ひかるくーん」 「何や?透子ちゃん」 少し間の抜けた声に振り返ると中学生にしても童顔な可愛らしい少女が立っていた。古賀透子。天然で癒し系の俺の友達や。あ、透子ちゃんにはちゃんと彼氏おんで。何でも二年の人らしい。その人の都合で学校内ではあまり会えないらしいが彼氏の話をするときの照れた顔とかめっちゃ可愛ええ、守ってやりたくなるタイプやなぁ。 「今日パンケーキ作ったんやで。お裾分けするね」 「ほんまに?…彼氏、喜んでくれるとええな」 「うん、光君おおきに」 そう言うと透子ちゃんは真っ赤になって下を向いた。透子ちゃんは彼氏の差し入れの余りをよく俺にくれるんや。ていうか一緒に作ったりもする。透子ちゃんめっちゃお菓子作り上手いねん。あれ、今思ったけど俺って草食系男子…? 「じゃあまた教室で会おな」 はにかむように笑って透子ちゃんは手を振って駆けていった。あーぁ、どうせなら藍華やなくて透子ちゃんみたいな妹欲しかったわ。無条件で人に優しくしようとする透子ちゃんは凄いいい子やと思う。やから透子ちゃんと周りには沢山友達おるんやろなぁ。俺にはそういうこと出来へんわ。透子ちゃんが見えなくなるまでぼんやり後ろ姿を見ていたらどんっと背中をどつかれた。誰やねんっ! 「財前モテるなぁっ!彼女か?」 「ちゃうわ、透子ちゃんは友達。てか一氏先輩、何でおるん。此処一年の教室の前っすよ」 「あー…、それはな。小春探してんのや。小春知らん?」 嗚呼何や、何か違和感ある思ったら何時も一緒の小春先輩がおらんかったからか。ていうか一氏先輩藍華でも追いかけて見失ったんちゃう? 「知らんっすわぁ。ていうか一氏先輩、もしかして斉田先輩と話してたら小春先輩いなくなった、とかじゃないっすよね」 それやったらアホやなこの人。まぁ小春先輩が藍華嫌いなん知らんようやししょうがないか。一氏先輩を見ると…当たりやったらしく目を丸くしとる。 「アホちゃいます?」 小春先輩逃げたんやな。まぁ逃げたなる気持ちはめっちゃわかるねんけど。 「小春先輩のことやけんトイレにでもおるんやないすか」 「それが…二年のフロア全体的に探したんやが、何処にもおらんねん。白石も謙也も知らん言うとったし。最近財前、憎らしいほど小春と仲ええやろ?もしかしたら知っとるかな、て」 「…なんやそれ」 二年のフロア全部探したのにおらんの?何や、それ変やなぁ。時々俺も小春先輩と行動したりしよったから行動パターンとか結構わかるんやけど。それに顔が知れとる小春先輩が行方不明になるなんておかしい…?嫌なことが起こりそうな気がしてならないんやが。 「あっ!ユウジと光君!こないなとこで何しとんのぉ?」 一氏先輩と小春先輩が行きそうなところを考えてた時、向こう側から藍華が走ってきた。何で今来んねん。 「藍華やないか!なぁ、小春知らへん?」 「ぇ、…金色君?」 一瞬藍華の顔がひきつった気がした。こいつ、何か知っとるんちゃう?そう言えば藍華は小春先輩あんまり好きやないっぽいちゅうか、時々睨んでるときとかあったり。…まさか、な。小春先輩に手ぇ出したりとか(悪い意味で)。 「知らんよぉ。授業始まったらすぐ戻ってくるんちゃう?」 藍華は指先で髪の毛先を煽りながら微笑む。その仕草にギクリとした。前世でもそうやった―――…藍華が嘘をつくときの癖や。小春先輩に、何かあった?じゃあ先程感じた悪い予感はもしかしたら。そう思うと堪らず俺は駆け出した。 「せやな!…って財前何処行くねんっ!授業始まるで?!」 「光君!?」 二人の声なんて聞こえんかった。お願い、お願いやから無事でおってや小春先輩。 2010.4.1 |