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大阪に帰る時、やっぱりというか千里さんは見送りにやってきて捨てられそうな犬みたいな顔しとった。俺、犬属性に弱いみたいや。今まで猫の方が好きな筈やったんやけどなぁ。あと何や藍華が千里さん見て何時も通り上目遣いで愛想…ていうか媚を売ってたんやけど千里さんめっちゃ顔ひきつってたで。ざまーみろなんて思ったのは秘密や!藍華はイケメン全員手込めにでもしたいんやろか。意味わからん。
新幹線に乗って数時間(隣で藍華がずっと喋りよったけど俺は音楽聞いてるフリして無視した)やっと大阪に戻ってきた時、なんやめっちゃ懐かしかった。二日間しか熊本おらんかったのに変やなぁ。濃い熊本ライフ過ごしてたからやろか。

「疲れた…」

家にたどり着くと疲れが一気に押し寄せベッドに飛び込み丸くなる。因みに俺のベッド、セミダブルなんやで。広いから多少転がってもベッドから落ちたりせぇへん。枕に顔を埋めると眠気が襲ってきた。昼寝してもええよな、うん。目を閉じた途端に意識が白んできてそのまま俺は溺れるように眠った。



どれくらい眠ったんやろ。意識が急に回復してきて、体が宙に浮いているような妙な浮遊感があった。その浮遊感は前にも感じたことがあるような気がして俺はゆっくりと目を開けた。二、三度瞬きをし、周りを見るとそこは真っ白な空間やった。そして急にひょこりと視界に現れた男は自分が藍華に殺されたあの時に現れたあの男やった。

『お、やっと起きたん?あんま待たせんなやぁ。急ぎの用事なんに起きんかったらどないしよう思ったやん!』

「…っ!!お前は!!?」

思わず体を起こすと男はにやりと笑って俺の頭をかき回した。

『元気にやっとるみたいやなぁ。どや、俺が作ったその体は?』

「何で“財前光”なん」

『さーぁ、何のことやら』

「しらばっくれるなや!」

男は至極楽しそうに笑いながらくるくる回る。男の笑い声が真っ白な空間に不気味に響き渡る。

『っと、無駄話しとる場合やないんやった』

男は立ち止まるとあの時と同じような仕草で俺の両目を覆う。男の手はやはりヒヤりとしていてそれがまるで死人のようでぞっとした。

『見てみぃ』

見る?目を覆っとるのにどないして“見る”ん?そう疑問に思いながら男の手に覆われたままの目を開いてみる。なん、やねん。暗闇の向こうに光が見えた。そしてその光の中には沢山のコードに繋がれた昔の自分の姿。そして心臓が動いていることを表す電子音が響いていた。

『手違いで、お前さんまだ死んでへんかったんや』

堪忍なぁなんて言う男の言葉が信じられん。俺が、まだ生きてる?死んだからこの世界に生き返ったんちゃうんか。

『あの世界でのお前さんはまだ生きとる。…やが、心はこっちにある。つまり植物状態やねん』

「植物、状態?」

『ほんで、こっからが本題やな!…お前さん向こうに帰りたい?』

向こうに帰る?どくん、と心臓が高鳴った。帰れるんや、向こうの世界に。脳裏に向こうの世界の親や友人や他の人達の姿が甦り胸が熱くなった。…だけど。

「向こうに帰ったら、今の俺はどうなるん?」

向こうに戻ったら、今の体はどうなるんや。魂が抜け落ちたこの体は。

『大丈夫やで、死ぬんちゃうから』

男の言葉に安堵した…、が。

『この世界から財前光が消滅するだけやねん』

時が止まった気がした。財前光が消滅する…?この世界で生きた時間も何もかもが消えて無くなるっちゅうんか。そう考えたら怖くなった。この世界に生まれて辛かったこともあった、やけど楽しいことはその倍はあったんや。金ちゃんや部長、謙也さんに小春先輩一氏先輩千里さん。その人達の中から俺が消えてまう。

『まぁ今決めろ言うても無茶やんな。あの世界でお前さんの体が魂なしで生きていられる時間は…せやな、こちらの時間で来年の秋や。それがタイムリミットやねん』

来年の、秋。全国大会が終わった後や。

『その時また来るから覚悟、決めときぃ』

男の姿が歪んで、目が覚めた。見慣れた天井に少し安堵する。起き上がると冷や汗のせいか着ていた服がびっしょりと濡れていたが着替える気なんておきる筈もなく俺は膝を抱えて踞った。あの夢が、本当にただの夢やったら良かったのにと思いながら。





2010.3.31

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