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二度とあることは三度あるちゅうように一度あったら二度もあるんやろか。その日俺達は再び祖母の入院する病院に来とった。でも俺は藍華と一緒に居たくなくて(何や手ぇ繋ごうとしてきたりとか図々しいねん)散歩に行くと言って病室を出た。行く宛もないから取りあえずふらふらしとった時や!いきなり足が地面から離れて宙に浮いた。何やねん思ったら、脇腹から腕を差し込まれて抱き上げられとったんやてわかった。ごっつ驚いて振り返るとニコニコ笑った千里さんが居ったて訳や。

「千里さん…!」

「光君また会ったばいね」

千里さんと俺ではかなり身長差があって俺がいくら足をバタつかせて暴れても足が地面に着くことはなかった。ちぇっ、絶対身長伸ばすで!

「昨日光君直ぐに帰ったから寂しかったとよ〜」

しゅんと項垂れる千里さんは何や飼い主に構って貰えへん子犬みたいやってん、思わず笑ってしもた。千里さんはそんな俺を見て目を丸くすると俺を地面に下ろし今度は正面から抱きついてきた。何度も寂しか、と呟いく千里さんに少し疑問を持つ。千里さんいい人やし、癒し系や。やから沢山友達おる筈や。なのに何で一人なんやろ。目ぇ怪我しとるんやし親や友達が付き添っててもええ筈なんに。俺に貼りついた千里さんを優しく離して手を繋いでやると千里さんは嬉しそうに笑った。取りあえず廊下で話すんもなんやし昨日の所へ行こうや、そう言って歩き出す。当然俺は右側歩く。

「なぁ千里さん、何でいつも一人なん?」

前を向いたまま聞くと千里さんは繋がった手をぎゅっと握りしめた。どないしたんやろ、と思って上を向くと千里さんは悲しそうに笑ってた。聞いたらあかんかったやろか。

「俺、テニスしとったとよ。そんでテニスで右目ば傷つけたたい」

千里さん、テニスしてたんや。強いんやろか。そう思って少し気持ちが高揚したが押さえ込む。

「俺の周りの人達は“テニスが上手い千歳千里”が好きやったと。…俺がテニスを出来なくなった途端に皆居らんくなったばい。俺は、一人ぼっちやったと」

繋がっていた手を離されお互いに何気なく向かい合う。千里さんの右目に巻かれた包帯が痛々しくてそれに手を伸ばす。一瞬千里さんの体がびくりと跳ねて固まるが俺が優しく包帯を撫でると次第に緩和していく。

「俺は、千里さんやから今話してんのやで」

自分でも俺は人見知りの激しい性格やてわかる。でも千里さんはそんな俺でも近づきやすい人やった。自然体の自分で居られるんや、そんな風に出来る千里さんは凄いと思う。

「俺、初対面の人と一緒に居ったり話したりするの嫌いやねん。でも千里さんとは自然と話せるんです。多分千里さんがそういう雰囲気にしてくれるからっすわ。人を落ち着かせる何かを持っとるんや思います。そういうのって凄いことやで」

これは正直な気持ちや。セコい言い方やねんけど、伝わってくれるとえぇなぁ。

「千里さん、今は一人かもしれんけど大丈夫やで。絶対千里さんのそういうところ好きや言うてくれる人おるから」

千里さんを真っ直ぐ見つめて言うと千里さんは泣きそうに顔を歪めた。泣いてまうんやろか、て思ったら千里さんは綺麗な笑顔で小さくありがとう、て言うた。


「…ばってん、俺は光君にだけ好きば言うて欲しいたい」

「え?」

ぼそりと呟かれた言葉を聞き返す暇もなく包帯に触れていた左手を掴まれる。ぎゅっと握られたかと思うとその手を引かれ俺は千里さんの胸の中に飛び込む形になった。え…えぇ?何でこないなことになるん。抱きついてくるのはさっきのと変わらんのやけど、抱き締め方がちゃうねん。さっきのは子犬がじゃれとるようなやつで、今のは何か…恋愛感情入っとる、みたいな。いや!いやいや!!無いっ!それ無いわぁっ!
俺は男で千里さんも男。恋愛感情なんかあるはず…

「光君、好いとう。俺の側に居って欲しか」

―――…ありました…。
好きだと繰り返す千里さんの胸の中で俺は固まるしかなかった。何でこないなことになったんやろ?




2010.3.30
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千歳が暴走しました。私の指も暴走しました← 何書いてんだよw千歳は光君の魅力にやられた模様です^^ 謙也君の次は千歳(笑)

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