20



話をしているうちに大阪に帰るには遅い時間になったので今日は祖母の家に泊まることになった。大阪にあった実家に比べ新築なのでやたら綺麗やった。ええなぁ、めっちゃ恰好ええ。まぁ家も義姉さん来るときに家をちょっとやけど改装したんやけどな。

「うちにない思ったらばぁちゃん家にあったんやなぁ、これ」

「どないしたん?」

オトンが買ってきてくれた白玉ぜんざいに手を付けながら兄貴の手元を見る。ボロボロとまではいかないが古くなったアルバムやった。兄貴がそれを捲るのを隣に座って見ているとオカンが俺が兄貴に近づくんが珍しい!言うた。そんなことない…わけやないな、うん。よう考えたらあんま俺から兄貴に寄ってったりせぇへんかった。

「おっ!これ光やで、小学生や!」

いやいや、俺ちょっと前まで小学生やったんやけど。よく大人やねぇて言われるけどな。しゃーない、精神年齢高いの嘗めんな!

「兄貴がめっちゃ若いわぁ」

「ちょっ!?それ今俺が老けとるみたいやんか!」

「二十歳過ぎたらもう爺やで。ちゃうの?」

「アホか!!!」

兄貴は怒りながらも俺と普通に話せてるのが嬉しいのか何なのか口元が緩んどる。ヘタレめ。そんなんやけん恵が義姉さんばっかりなつくんや。あ、せやこの間兄貴が恵を抱っこしたら恵が大泣きしてん、あれオモロかったわぁ。兄貴も半泣きやったし!心の中で兄貴を馬鹿にしつつアルバムを覗き込む。写真の中にはぶっきらぼうにカメラを睨む小学三年の俺がおった。
そう言えば、このくらいの時やったな。俺が家族に俺の精神の話をしたのが。俺が、中身が女やってことを。

『オカン、オトン、兄貴。聞いてくれへん?』

正直、怖かった。でももう色々と限界に達していて(精神的にもやし何より家族に嘘をいい続けるのが)俺は話せることを出来るだけ話した。俺が前世の記憶があること、それのせいで今まで苦しんだこと。そして俺がほんまは女の子やってこと。その時、忘れてたんや。あの男とした約束を。あの男が言ったことはこういうことやったんかって話した後にわかった。

話し終わり俯いていた顔を上げると兄貴は悲しそうやったけど笑って俺を慰めてくれた。やけどオカンはこの世の終わりみたいな顔して泣いとった。ごめんね、て言うて俺を抱き締めて何度も謝ってきた。女の子に生んであげられんでごめん、やて。謝らんでって言うてやりたかったけど話をした時点で俺はそれを望んでたんやってわかった。謝るのは、俺の方やった。泣くオカンの服を握りしめて兄貴の後ろに立ってたオトンを見ると真っ青やった。信じられんて顔して呆然としとった。

『…オトン?』

名前を呼ぶとびくんとオトンの肩が揺れて、意識が戻りそして俺を拒絶するみたいな目をして俺を見てきた。

『何を、言うとんの?』

オトンはゆっくり俺に近づいてきたかと思えば俺とオカンを引き剥がして俺を突き飛ばした。遠くでオカンの悲鳴と兄貴が俺を呼ぶ声がしたけど床に後頭部をぶつけて痛くて頭を押さえるので必死やった。ぽたって何かが額から落ちた思って見ると血やった。ぽたぽたって床に染みを作っていくそれに、前世のあの出来事がフラッシュバッグして体が震えた。

『お前は男や、そうやろ。なぁ光』

腕を掴まれて強引に立たされる。オトンの表情はなくて、嗚呼受け入れてもらえんかったんやてわかった。俺は何処かで甘えてた。この家族やったら俺の全てを受け入れてくれるんやないか、て。

『――…お、ん。俺男や、ちゃんと男やねん。今の話、嘘やってん、堪忍、な』

震えていなかったやろか。俺、ちゃんと言えてた?

“自分が異世界の人間やて言わんこと、や”脳裏にあの時出会った男の声が響いて嗚呼あれはこういうことやってんなぁ、てわかった。あれから俺はずっと男として生きてきた。そしてこれからもそうやって生きていく。



「…もう飽きた」

「あっ!ちょっ、光何閉じてんねん!!俺まだ見てたんやでっ」

アルバムを閉じると図上で兄貴が怒鳴って俺の頭をバシッて軽く叩いた。しゃーないやん、嫌なこと思い出してん。食べ終わった白玉ぜんざいの容器をゴミ箱に投げ入れる。容器はがこんと音をたててゴミ箱の中に落ちていった。




2010.3.29
________________
く、暗い…!!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -