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あの後青年?を連れて逃げるように病院の中庭まで来た。整えてある木々で日陰になっている場所に長椅子があったのでそこに座らせ自分も少し離れて隣に座る。俺は恥ずかしさで切羽詰まった状態やったってのにこの人は「今日は天気が良かね〜」とか呑気なこと言いよったから頭を叩いてやろか思ってしもた。てか、何この世界遺産に登録されそうなほどにぼんやりした天然は。よく今まで普通に生きてこられたなて思うわぁ。

「口ば大丈夫とね?」

くりっと此方を向いて心配そうに見てくる青年?があまりにも純粋に見えてツッコミを入れられずにおる。

「おん、だいぶ平気になったすわぁ」

口内の血も止まって大丈夫そうやったから口を開くと青年?は驚いたように目を丸くした。何やねん、何かあるん?そんな青年?の姿に俺もびっくりしてもた。

「大阪弁たい!大阪の人やったとね!!」

「…まぁそうっすけど」

「ハハ、面白か話し方ばい」

いや俺にとってはあんたの方がオモロイんやけど。てか頭にめっちゃ落ちてきた葉っぱが乗っとってそれに気づいてない青年?に思わず吹き出した。ふわふわ髪やから引っ付きやすいんやろか。

「なっ何ね!?驚いたばい」

「いや…ふ、くくっ!やってそれ、めっちゃオモロイで」

青年の髪に引っ付いた葉っぱを一枚取ってみせると青年は慌てて髪の毛を叩いた。それにくすくす笑っているとふいに青年の手が俺の髪にも伸びてきた。

「お前さんも付いとっと」

今日は髪にワックスなどを付けてなかったから青年の指が髪に引っかかることなく解かれる。てか、恥ずっ!他人のこと笑っときながら自分も付いてたとか…!あかん穴があったら入りたい…!!恥ずかしさに顔を背けながらちらりと横目で青年を見れば青年は俺の髪を撫でながら何やら微笑んどった。

―――…ってあかんあかんあかん!!!天然タラシが発動しとんで、これ。何やねんこの雰囲気!違う意味で恥ずかしなってくるわ!そういうのは彼女だけにしてやれや。

「っ!髪が乱れるわっ!」

腕を振り払うと悲しそうに顔を歪める。止めてや!なんか罪悪感沸くやろ!!!

「そう言えば、名前ば何て言うと?」

あ、そう言えば名前言うてへんかったなぁ、なんや普通に会話してたけど。不思議やわぁ。なんというかこの人の雰囲気がそうさせてた、て感じやねんな。

「光、財前光っすわ」

「ひかる君たいね、俺は千歳千里言うとよ」

青年はそう言いながら前屈みになり指で地面に名前を書いていく。千歳千里かぁ。何や聞いたことあるような…?まあええか。それにしても千が二つあるなんてオモロイ名前やんなぁ。

「千歳、さん」

「他人行儀たいね。千里でよか」

「…じゃあ千里さん」

あああぁ名前呼び苦手やねんけど!何で出会う人出会う人で名前呼べ言うねん!ほら他に謙也さんとか。…て、また頭撫でとるっ!何で皆頭撫でるんやぁぁ!!

「頭撫でんといて下さい」

「んー、丁度よか高さにあるけん撫でやすかとよ〜」

そりゃあ千里さんデカイもん。それにあんまり撫でられると子供扱いされとるみたいで好きやないんやわぁ。じろりと千里さんを睨み付けてみるが千里さんはニコニコ笑ったままで効果はなかった。

「…むぞらしか」

む、むぞ…?熊本弁か何かやろか。考えてると何か病院から音楽みたいなんが流れ出した。

「もう12時ばい」

「はっ!?12時なん!!?」

ちょっどんだけ話してたんや!一時間くらい…?大阪のおばちゃんみたいや。いや精神的にはそうなんやけどな。てか俺飲みもん買いに行く言うてきたのに一時間も何しとんて言われそうや。

「堪忍っすわ、千里さん!俺帰らなあかん!」

「えっ?ひかるく…」

勢いよく立ち上がり千里さんに一礼する(一応運動部やから癖や)。そして有無を言わさず早足で…というか駆け足で祖母の病室に向かう。後ろから千里さんが俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが無視した。やって、オカンに起こられてまう!知らんやろけど、いつもマイペースなオカンは怒ったらごっつ怖いねん。その時のオカンの顔を想像して俺は小さくため息をついた。




2010.3.27


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