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春が過ぎて、夏が近くなったのか段々と蒸し暑くなっていくのがわかった。やって部活に入部したての頃はジャージ着てても風が少し肌寒かったから。先輩らは温かなってきた言うとったけど低体温の俺には寒く感じた。

「光っ!大変や!」

「うっさいわ、兄貴!何やねん」

今日は土曜日。でも今日の部活は昼かららしく久しぶりに一人の時間を満喫していた。ベッドでダラダラしながら携帯を弄っていたら兄貴が勢いよく俺ん部屋の扉を開いてきよった。この兄貴はドア壊れるて何回言っても学習せんな。

「熊本のばぁちゃん倒れたらしいで!」

え、まじで?兄貴の言葉にバッと起き上がる。熊本の祖母には、昔お世話になった。祖母は前に大阪に住んどったんやけど突然「熊本に住むで!」言うて引っ越していきよった。めっちゃ元気やったんに(むしろ元気過ぎて怖い)どないしたんやろ。

「今すぐ行くから準備せぇな!」

慌ただしく去っていった兄貴に続くように俺も急いで荷物を纏める。いや大して持って行くもんとかないんやけどな、一応や。あ、ノートパソコン持って行こ。俺パソコンないと生きていけんし。それに祖母が倒れたちゅうことは多分付き添わなあかんやろから暇やと思う。荷物を担いで下に降りると可笑しいくらいに皆慌てとった。普段のんびりした家庭やから珍しい。
義姉さんは俺に気がつくと準備するから預かって!と言わんばかりに抱いてた恵を俺に預けてきた。俺はベビーシッターちゃうで!!そう思いながら落としそうになった恵を抱え直す。恵を見るとそんな騒動に関係ないとばかりに安らかな顔して寝とった。…こいつめっちゃ図太いんちゃう?

「親父には連絡したんか!?」

「暁彦さんも後から来るって言ってたから大丈夫よ!」

なんや親父も来るんやな。因みに親父は東京に単身赴任中や。俺が小学五年の時に会ったきりやから二年ぶりくらいやわぁ。

「光君、準備出来たん?」

目を覚まして泣き出しそうになっとる恵をあやすように揺らしとったとき、俺と同じく準備が終わったらしい藍華が階段から降りてきた。せや、こいつも居ったんやったな…。俺が何んも言わんで立っとったら藍華は俺の横に来て話し出す。前は嫌で堪らんくてストレス半端なかったんやけど何時ものパターンやからもう慣れたわぁ。

「お祖母さん大丈夫かなぁ?」

いや、家のばぁちゃん知らんくせに何言いよるん。藍華の声を聞き流しながら恵の頬を煽る。流石赤ちゃん弾力半端ないわ!

「なぁ、光君はなんで私を無視するん?悲しいんやで」

藍華が眉をハの字にして上目遣いで俺の服の裾を軽く引く。嗚呼うん、それ何やねん。確かにそこら辺の馬鹿男やったらイチコロやんな。でも同じ女(中身が)にはキモすぎる。そう言えばコイツ女友達と一緒にいるとこ見たことないわぁ。

「別に無視しとる訳やないで」

「でも私と全然話してくれんし…」

いや、いやいやいや。普通やんな。普通に必要最低限には話しとるやろ。部活の時とか家とかでも。何でお前にだけ特別待遇せなあかんねん。先輩らとか馬鹿男とかにちやほやされて特別待遇が普通やと思っとるんか?うわぁアカン、こういうのがアカンねんで!

「一緒住んどるのに学校で敬語やし。家みたいに普通に話して欲しいんや」

うわぁぁぁぁぁああ何でやねん!同棲しとるみたいに言うなや!!鳥肌立ってきた…!

「あんた年上やろ。それに敬語使ってなかったら先輩とかにまた色々言われてまうし、そういうの面倒くさいわぁ。」

「…そっか、そうやな。ごめんな光君」

藍華は俺の服の裾から手を離し伏せ目がちになる。なんにも分からん馬鹿男やったら泣いてまう!て思うんやろな、これ。ていうか何でこない演技力あんねん。どこでどうやって磨いてきたんか不思議や。

「ひかるー、藍華ちゃーんもう行くで!」

話しているうちに兄貴達も準備が終わったらしく此方にやってきた。祖母の見舞いに行くっちゅうのに、新幹線や!言うてテンション上がってる(万年中学生な)兄貴を蹴りあげつつ俺はため息をついた。
藍華が来てからため息ばっかやな俺。幸せ逃げとるんちゃうやろか。そう思いつつ再び眠りについた恵の頭を撫でてやった。




2010.3.26

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