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「お姉ちゃん」そう言ってよく私の後ろにくっついていた。ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべて私を見上げていた。何時からだろうか彼女は…藍華が表情を作るようになったのは。何時から、藍華は私を疎むようになったのだろう。

ピピピピピピ、空気を揺らす目覚まし時計の音に夢から覚醒した。激しい音をたてる目覚まし時計を急いで止めるとベッドから身を起こした。懐かしいような、寂しいような夢を見た気ぃするけど…まぁええか。くしゃりと前髪を掻き上げると身支度を始める。時計は六時を表していた。顔を洗い歯を磨く。その後制服に着替え、髪を整えピアスを付け直した。完璧や!あ、別にナルシストやないで。人前に出るんやから最低限の身嗜みをしとるだけや。ゆっくり準備して三十分。欠伸を噛み殺しながら(低血圧やもん、しゃーない)リビングへ向かうとオカンと義姉さんはもう起きとって俺を見てにこりと笑った。

「光ちゃん早いわね〜!今日から部活?」

「いや、まだ入部届け出しとらんから行かんでええと思うわ」

ダイニングテーブルに置いてあるオカンが用意してくれたホットミルクに口を付けながら今日の予定を考える。因みに俺は朝御飯食べん。

「はい光君、お弁当。今日はハンバーグ入っとるんやで」

「ほんまに?おおきにー」

「自信作なんよ」

椅子の背に凭れのんびりしていると義姉さんが俺の前に弁当置いてくれた。あかん、義姉さんめっちゃええわぁ。兄貴の嫁さん止めて俺の嫁さんになってくれんかな…あかんよな、やっぱ。

「あ!そうそう。藍華ちゃんの部屋ね、光ちゃんの隣の部屋だから」

「ほうか……って、はぁ!?」

何で藍華が隣室やねん!

「光ちゃんの隣の部屋だったら何かあったとき大丈夫だと思って〜」

オカン…めっちゃKYやで、それ。昨日の事件で気まずくなっとるのに。ていうか昨日ちゃんと無事に帰ってきたんやなぁ、苛ついてもて金ちゃんと置いて帰ったんに。良かった。ふいに時計を見ると七時を指していて俺は慌てて立ち上がる。あかん、ゆっくりしすぎたっ!遅れてまう!弁当を鞄に入れると玄関へ向かった。

「ほな、行ってきます!」

「「行ってらっしゃーい」」

嗚呼ええなぁ。こういう家族ってめっちゃええと思うねん、理想ちゅうか。心があったかなる。オカンも義姉さんも最近産まれた甥っ子も、多分兄貴も好きや。…幸せっちゅうもんは些細なことで直ぐに壊れてまうもんやねん。やから出来ればずっとこのままであって欲しい、そう俺は願った。






学校に着くと何故か丁度テニス部が校門あたりに集まっとってヤバい思った。昨日目立ってもたから何か絡まれそうやな。出来るだけ気配を消して人に紛れて校門を通り過ぎようとした瞬間、がしりと腕を捕まれた。
恐る恐る捕まれた方向を見るとめっちゃ明るい顔した忍足先輩がおった。なんでやねん!そこは空気読んでスルーしてや!KYはオカンだけで十分や!

「忍足先輩」

「財前やないか!お前朝練サボったやろ」

にやにやしながら聞いてくる忍足先輩に軽く苛つきながら腕を振り払う。朝練サボったて何やねん。

「俺まだ入部してないっすわぁ」

「ん?でも昨日来とった一年は来たで。来とらんの財前だけや」

「…まじすか」

ええぇー、何でそない元気やねん。若いわぁ。嫌だというのが顔に出たのが面白かったのか忍足先輩は豪快に笑いながらガシガシ俺の頭を撫でてきた。セット崩れるからやめてぇな。

「財前お前オモロイやっちゃなぁ!あ、せや!財前のこと“光”て呼んでええ?」

いきなり名前で呼ぶんかい。図々しいやっちゃな。

「まぁええっすわ」

忍足先輩はそっけなく答えたにも関わらずめっちゃいい笑顔で笑ってきよった。なんや、先輩かわええな。金ちゃん家にいる犬みたいや。かわええんやで、金ちゃん家の犬。

「ほんま?じゃあ俺のことは“謙也さん”な」

「えー」

「えー言うなや!名字呼びはあんま好きやないんや。ほいっ、言うてみ?」

てかなんで“謙也さん”なんやろ。名字呼びが嫌なら謙也先輩でええやんか。そう疑問に思いつつあまりに忍足先輩がキラキラした目で見てくるから思わず名前を呼んどった。

「…謙也さん」

呼んだ瞬間謙也さんは何故か真っ赤になって、慌て出した。何やねん、変な人やなぁ。その慌てように可笑しくなって吹き出す。

「謙也ー、後輩にナンパすんなや」

部長のその一言が聞こえるまで俺は笑い続けた。




2010.3.24
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謙光ぽくなってしまった^^


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