レンアイゲーム 6



うつ向いた顔を上げると、千歳先輩が冷たい表情で見下ろしていた。それにゾクリと悪寒が走る。
「…それは、どげんこつね」
怒りを含んだような声音に俯いていた顔を上げると千歳先輩は大股で此方に歩いてきて俺を力ずくで押し倒した。呆けていたが鈍い音と後頭部にある痛みに我に返る。
見上げた千歳先輩の表情は酷く傷付いているように見えた。
なん、で…先輩がそんな顔するん。痛いんは俺や。俺も同じなんに何で自分ばっかり痛いみたいな顔するん!!?
「離せや。もう終わりや言うたやろ」
「終わりって、なんね!?」
「もう千歳先輩とは会わない。キスもせんし、セックスもせぇへん。他人に、戻りましょ?…その方が、きっと千歳先輩もいいっすわ。やから……んっ!?」
顎を掴まれ強引に口づけられる。両腕を頭の上にまとめて押さえつけられる。
声が震えてた。でも、言い出したら止まらなかった。涙が零れる瞬間次の言葉は先輩の口内に消えていった。何度も角度をかえて押し付けられ息が苦しくなって口を開くと舌をねじ込まれた。
「んっん…ふぁ、あ……や!ちとせ、先輩…あかんっ!!」
ぐっとシャツを捲り上げられ胸の突起に舌を這わせてくる。ぞくぞくした感覚が背を駆け抜けて、その行為に慣れた体はすぐにその快感を追う。
「いや、いやぁ…!せんぱ…ぁ、やめ、やぁああっ!」
「こげん感じとって…何が嫌とね」
冷たい声に快感とは別にびくりと体が跳ねる。
こんなん、知らん。こんな千歳先輩知らない。先輩は優しくて温かくて、…俺はそんな先輩が好きやった。好きで好きで、堪らなくなって気がついたら先輩を失うのが怖くなってた。
人間はすぐに飽きてしまう生き物やから千歳先輩もいつか俺に飽きて違う人に俺にするみたいに触れたり愛を囁いたりするのかと思ったら狂いそうなくらい怖かった。それくらい先輩に依存してた。そして、そのことも怖かった。俺は臆病者だから怖くて、逃げる方を選んだ。離れたらこの気持ちも消えると思った。思った、のに。
「いや、や…嫌…!」
涙腺が崩壊したみたいに涙が止まらない。
「先輩、千歳先輩、離れんで…離れたら、嫌やぁ…!!」
千歳先輩の手が止まり俺を見て目を見開く。先輩は強く掴んでいた手をほどくとその手を俺の頬に這わせる。溢れてた涙が先輩の指先にも伝った。
まだ痺れているが自由になった手を必死に伸ばして千歳先輩の首に腕を回すと自分からキスを送った。
「ん…先輩、俺、もうあきません。壊れとるん、自分で分かるんすわ。先輩を失うのが怖ぁてたまらへん。俺は、今まで色んなもん無くしてきたから、先輩もいつか俺を捨てて消えてくんやって、思って怖くて、たまらへんくて。先輩、怖いん…もうこんなん嫌やねん。…やから、もうこんな関係やめましょ?これ以上先輩を縛り付けられません。やから、もうやめましょう」
俺は、ちゃんと笑えとるやろか。ちゃんと笑って言えたやろか。
「…そうたいね、もう終わりにすっと」
おん、それでええんすわ。また胸の内が真っ黒になって穴が空いた気がした。


「こげん中途半端はいかんたい。だけん…光、俺とちゃんと付き合って欲しか」
今度は俺が目を見開く番やった。先輩の言葉が頭の中をぐるぐる回って思考が追い付かへん。
「愛しとう、光。ずっとずっと、愛しとった。これから先何があっても側におるって約束すっけん…俺と付き合って下さい。俺に、光を愛させて」
千歳先輩が俺の顔を両手で包み込んで優しくキスをする。先輩を見上げたら真剣なそれと目が合って止まったはずの涙がまた溢れてきた。
「…ほんまに?ほんまにずっと側におってくれるん?」
「約束すったい。もし破るこつがあったら俺を殺したらよかね」
「…もう泣くんは嫌や。寂しいんも、後悔するんも嫌です」
「絶対泣かせんたい。ずっと側におるけん、寂しい思いはさせん。後悔もさせんけん。光、俺を好きになって欲しか」
じわじわと千歳先輩の言葉が心に染みて、傷口を塞いでいく。…そう、もう失わないために、怖がるだけやなくて俺が手を離さなければいい。
手を伸ばせば、握ってくれた。指を絡めて強く握りしめる。もう、逃げることなんてしないやっと手に入れたんや。二度と手を離さない。



レンアイゲームは、終わりを告げた。





2010.8.6完結、2011.4.9修正。
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