レンアイゲーム 5



ずっと千歳先輩と俺のこの関係は続くものだと、過信していた。“ずっと”だなんてあるはずなかったのに。それを一番わかっていたのは、自分自身のはずだったじゃないか。


千歳先輩に会えるかもしれない、と今日はいつもより早めに起きて朝練に向かった。だがそこに千歳先輩の姿はなくて、落胆する。
「(俺は何を期待しとんのやろうか)」
いつもみたいに好きだと言って欲しい?それともキスをして慰めて欲しい?どれも違う気がしてグルグルと不快感が胸の内を這い回る。それでも千歳先輩に会いたくて校内を探しまわった。千歳先輩を探しているうちに放課後になっていて、しかたなく俺は校舎の裏にある山へ足を向けた。千歳先輩が一度俺を連れて行ってくれた場所があった。木の隙間から木漏れ日が射し込みとても綺麗な場所。一度だけだったから行けるか心配でまだ足を踏み込んだことはなかった。
急ぎ足で裏山への入口がある校舎裏に向かう。だが、裏山に入る前に千歳先輩は見つかった。
「千歳先ぱ…」
久しぶりに見たその長身に名前を呼びかけるが、直ぐ側にある少女の姿に踏みとどまる。誰や…?校舎の影に隠れて様子を伺う。少女は必死に何かを千歳先輩に言っていて、そして千歳先輩は――…
「(…何で笑ってんねん)」
ちらりと一瞬だけ千歳先輩が優しく笑うのが見えたあと、少女が千歳先輩に抱きついた。千歳先輩は少女の頭を優しく撫でて、されるがままになっている。
何で?何でなん。
俺は目の前が真っ暗になった。それと同時に後悔の念が身体中に駆け巡る。こんなことなら、千歳先輩なんか探さんかったら良かった、そのまま部活に行ってたらあんなもの見らんかったかもしれんのに。
「…終わった」
見ることがなかったらまだこの関係が続けられたかもしれない。ゲームはもう終わり…いや、もうとっくの昔に終わっていた。俺が、千歳先輩を好きになった瞬間からもう終わっていた。俺が千歳先輩の優しさに甘えてズルズルと引きずっていただけ。他の人に取られる前に、早く俺から彼を手放す。いつもそうしてきた、何を躊躇する必要がある?…何でこない胸が痛むんや。切り捨てなきゃ、もっと苦しくなるのに。
それからあまり記憶がない。部活やってた気ぃするし、部長や謙也さんが心配そうな顔しとったちゅうのもなんとなく覚えとる。そして今、俺は千歳先輩の前にいる。多分俺が千歳先輩の家に来たんや。
「光君がうちに来るとは思わんかったたい」
千歳先輩は笑って俺の頭を撫でてくれるけれど、いつもみたいに嬉しくならない。黙ったままの俺を心配したのか顔を覗き込んでくる。
「先輩」
名前を呼んで広い胸にしがみつくように抱きつけば千歳先輩も抱き締め返してくれる。嗚呼、何でこの人は俺のものやないんやろう。どこで、取られた?
もうこの人は俺のもんやないんや。脳裏に校舎裏での少女が思い浮かぶ。見た瞬間は嫉妬と嫌悪感で死にそうだったのに、今はこんなにも静かだ。
「光君」
千歳先輩が俺に口づけようと顔を近づけてくるのを止め、俺は先輩をじっと見つめた。今までされるがままだった俺が止めたことに驚いたらしい千歳先輩が目を丸くしている。
「光君、どげんしたと」
心が、凍ったみたいに冷たかった。


「先輩、ゲームオーバーすわ」







2011.4.9修正

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