レンアイゲーム 3



「何や、財前から甘い匂いすんやけど」
部活が終わり皆着替えている時ふと部長が言った。ちょうど俺は着替え終わり飴を口に含んだところだった。最近妙に飴をなめることが多くなった気がする。
「あぁ、飴食べよりますねん。部長もいります?」
今日買ったばかりの飴の袋を部長に渡すと何故か部員が集まり始めた。ちょっ、皆にやりよったら無くなるやろ。
「そういえば千歳は?」
部長が皆に飴を分けているとき(それ俺のなんやけど…)出た名前にびくりとする。
「最近見かけへんなぁ。部活にも学校にも」
「あいつ…これ以上学校休んで平気なんやろか」
千歳先輩の話に盛り上がっている中一瞬先輩とのキスを思い出し一人赤面する。…嗚呼そうか。最近飴をなめてばかりいるのは、アレがないから。
先輩のゴツゴツした長い指に唇を撫でられて、柔らかく微笑んだ後に優しく口づけられる。薄く目を開けて先輩を見ると浅黒い肌と長い睫毛が見えてドキリとする。先輩は俺に触るときいつも何処か寂しそうに、愛おしそうに触れてきて、俺は…
―――って、アカン!これじゃあ変態みたいやないか!
頭を左右に振って悶えていると謙也さんの笑い声が聞こえた。
「財前、何一人で百面相しとるん面白いやっちゃなぁ」
「…っ!謙也さんウザイっすわ!てか、スピードスター言いよるんに着替えるの遅いんすね」
「なっ何やてー!?」
「部長お先に失礼します」
騒ぎ出す謙也さんを無視し俺はバックを持って部室を後にする。他の人に聞こえるんじゃないかというくらいにドクドクと心臓が鳴る。バレたかと、思った。俺と千歳先輩がそういう関係だって。そんな筈はないのだが。
小さくため息を吐く。息をはいたのと同時に安心感もすべて消えた気がして怖くなった。
家に、帰らなくては。学校や部活では大丈夫なのだがまだ家が怖い。帰っても俺は、一人だから。家族の楽しそうな声を聞くのが苦しくて堪らない。俺が帰ってきたときに見せる、家族の気まずそうな表情が胸に突き刺さり、痛い。帰ってくるなて、俺はいなくてもええんやて言われているみたいで。
ふと千歳先輩の顔が脳裏に浮かんだがすぐにかき消す。先輩に迷惑はかけられない。だって俺たちはただの、

「財前君!」
早足で歩き校門に差し掛かったとき名を呼ばれ振り返る。名前は知らないが確か隣のクラスの女子。可愛いとクラス奴が話していた子だったと思う。
「何や?」
自分じゃないような少し低い声にその子は一瞬びくりとしたあとじっと俺を見てきた。
「あ…えっと、その、ね」
何やねん、早く言えや。そういう風に見てやればその子はぎゅっと手を握りしめる。
「私財前君が好きなの。…私と、付き合ってくれへんかな?」
家の中の、甥の周りに集まる家族の姿がフラッシュバックする。“俺を見てよ、ねぇ!一人にしないで”昔の俺が叫ぶ。
家にいるのは苦しい。一人になるのが怖い。寂しくて淋しくて、堪らないんだ。
「…あかん。付き合うとか、そういうの無理や」
そう言った途端に泣きそうになる女の子。俺はその子の側に行くと然り気無く肩から腕にかけてなぞるように触れた。
「…でも、」
“抱き締めたるし、キスもセックスも付き合うたる。…でも付き合うのだけはあかん。守れるんやったら、俺に触れてもええよ?”
耳元で呟けば目を見開く女の子。暫く固まったあと、震える手で俺の袖を掴んできた。
名前も知らない女の子に口づけながら、俺は深くなる胸の痛みに気づかないフリをした。その時、一瞬千歳先輩の姿が脳裏をよぎったのも、きっと気のせい。





2011.4.9修正

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