レンアイゲーム 2



人はいつも心変わりする生き物である。どんなに好きなものがあったって、いずれ飽きてしまう。いらなくなってしまう。

何時だったか、小学校低学年の時年の離れた大学生の兄が綺麗な女の人を連れてきた。兄はその人と結婚し、甥が産まれた。その時俺には大事にしていたクマのぬいぐるみがあった。だがある時甥がそのぬいぐるみを気に入ってしまった。そして両親や兄は揃って言うのだ。そのぬいぐるみを甥に譲ってくれないか、と。
本当は譲りたくなんかなかった。でも俺も甥が好きだったし渋々譲り渡した。
その後も甥は俺の持っていた大切なものを次々と持っていった。俺の大切なものは次々と無くなっていった。
甥は気まぐれで俺の大切なものは直ぐに飽きてしまった。そしてそれらは壊れた形で俺の元へ戻ってくる。壊れたそれらに俺は悲しくなった。
親は言う。『ごめんね、また買ってあげるから』…新しいものなんていらないのに。本当に欲しかったのは、壊れて戻ってきたこのぬいぐるみや玩具たちだったのに。
俺は心がすーっと冷めていくのを感じた。俺は遠くから両親や兄たちを見つめた。そして気がついた。最初に奪われたのは、俺の家族だったのかもしれない。皆、俺を置いて行った。捨てて行った。
千歳先輩も、いつか俺を捨ててしまうんだろうか?そう考えたら体が震えた。俺を好きだと言った時のあの笑顔でサヨナラを言うのだろうか。そんなの、耐えられない。
『好いとるよ』そう言われる度に罪悪感に押し潰されそうになっても俺はそれに答えることが出来ない。終わりを恐れて、答えることができない。
契約があるからゲームを続けられるのだ。だから、それが無くなってしまったら…。
俺は、終わりが来るのが怖くて仕方がない。だから、最初からそんなもの無ければこんな思いをしなくてもいい。

「光、どないしたん?」
ふいに肩をたたかれびくっとし、振り返ると謙也さんが立っていた。心配そうにこちらを見ている。
「気分悪いんやったりもう帰りぃ」
「平気っすわ、こんくらい」
「平気って…めっちゃ顔色悪いで?ホンマどないしたん」
「本当何でもないんで。謙也さん、ほなはよ練習行きますよ」
小さく震えていた手をラケットを握ることで押さえ込んだ。嗚呼、嫌なことを思い出した。
あの日の出来事は、まだ幼かった財前光という子供の心に大きな穴を開けた。その穴はじわり、じわりと次第に広がり真っ黒な血を流して続けている。
「(もう忘れたと思ってたんに)」
目を閉じると胸がちくりと痛んだのを感じた。また、穴が広がった。
「俺はもう何も無くしたりはせぇへん…しないはずや」
小さく呟いたそれを千歳は聞いていた。そして悲しそうに顔をしかめたのを、彼は知らない。

他人が、信じられない。だって彼らは直ぐに捨ててしまうじゃないか、直ぐに忘れてしまうじゃないか。信じられない、信じない。
現に、甥はクマのぬいぐるみを捨てたじゃないか。
家族は、俺を忘れたじゃないか。





2011.4.9修正

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