レンアイゲーム



『抱き締めてもええし、キスをしてもセックスをしたってええ。…でも付き合うのだけはあかん。守れるんやったら、俺に触ってもええっすわ』
それが俺に触る条件。
「ひゃぁ、ん…ぁ、あぁっ、ちとせ先ぱぃっ」
気持ちが良すぎて、可笑しくなりそうだ。ふわふわした黒髪に指を差し込み力一杯引っ張ってみる。すると千歳先輩は痛そうに顔を歪めた後に更に早く腰を動かしてきた。奥に千歳先輩のモノが当たる度に女みたいな甲高い喘ぎ声が上がって、羞恥に目の前が真っ赤に染まる。
気持ちいい、気持ちがいい。この一瞬のときだけが嫌なことすべてを忘れさせてくれる。
「ひかる、くん」
切羽詰まった掠れた声に胸の奥がきゅぅ、と握り込まれる感覚がした。その感情に気づかないフリをして俺は千歳先輩の首に腕をまわし、肩口に顔を埋めた。
光くん、光くんと名前を呼ばれる度に優越感が体を支配する。嗚呼まだこの人は俺のものだ。この人がまだ俺を好きでいる限り俺はこのゲームをしていられる。このゲームをしている限り、俺はこの人の側にいられる。恋愛ごっこをする、このゲームを繰り返す限り。
「あ、ぁ…あぁ、先輩、気持ちええ…!」
びくん、と自分の体が跳ねたかと思うと腹に濡れた感覚と共に気だるさが襲ってきた。力を抜いてベッドに深く沈み込むと千歳先輩が俺の頬を撫で優しく口づけてきた。
乱れた息を整えされるがままに口付けを受ける。利用するだけのこのセックスが終わったあとのキスが、俺は好きだった。
「無理させたばいね」
「しゃーないッスわ。…まぁでも、気持ち良かったしええですから」
「ふふ、むぞらしか」
それに、そういう条件なんやし。そう呟けば千歳先輩は先程まで嬉しそうだった顔を歪めて悲しそうに微笑んだ。そして再び俺に口づけるとそのままのしかかるように抱きしめてきた。194センチの巨人にのし掛かられたら流石に重い。
「先輩重いっすわ」
「うん、」
「動けん」
「うん」
「やから退いて欲しいんやけど」
「それは無理ばい」
何が無理なんや何が。小さくため息を吐きつつ千歳先輩の背中を子供をあやすように軽く叩いてやる。しっとりと汗で濡れた肌が擦れて一瞬ドキリとする。
まるで俺達が普通の恋人同士のように思えた。そんなのは一時の錯覚なのだけれど。
「光君」
千歳先輩が体をずらして俺の首に唇を寄せる。そのままキツく吸われその場所に紅い跡が残る。
「好いとうよ」
そう言った千歳先輩の声は妙に暖かくて冷えきった俺の心に浸透していく。千歳先輩は決して俺に答えを求めて来ない。
「おん…」
知っている。
俺は知っていてそれでいて答えない。千歳先輩は俺の答えを怖がって聞いてはこない。
『付き合うのだけは、あかん』

最初に言ったあの契約が、その先にある答えを閉じ込めてしまっている。俺も好きだなんて言えたら、この心は軽くなるのだろうか。千歳先輩に心を開けば、この寂しさから逃げ出せるのだろうか。

「先輩、もう一回…しよ?」




嗚呼なんて臆病な俺達。





2011.4.9修正

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