僕のロミオを返して 4



夢に、光が出てきた。涙で顔を濡らして、俺のことを嫌いと言う。その言葉に体が切り刻まれてるんじゃないかってくらい痛むのだ。泣いている光を抱き締めたくて手を伸ばそうとするのに、腕は動かない。側に行こうと足を前に出そうとするのに足は動かない。光、と名前を呼びたいのに口は石になったかのように動かない。光が背を向け去っていくところで、目が覚めた。汗が頬を伝い落ちる。置いて行かれることが、こんなに苦しいなんて思わなかった。
乾いた喉を癒そうと立ち上がり台所へ向かう途中、机の上で何かが光った。気になり、近づいて見ると昨日外したピアスだった。これの片割れは、光が持っている。確か、渡したのは付き合い始めて最初の方だ。

『光、ピアス多かね。どげんしてそんな開けっとね』
まどろみの中で彼を抱き締めいくつもピアスホールの空いた耳に触れる。擽ったかったのか、その手は振り払われたけど嫌ではなかったのだろう表情は穏やかだった。
『これは、俺がここにおるんやっていう証拠なんすわ』
『証拠?』
『…わからなくなるんです。ずっと一人だったから、一人でいいと思ってたから。でも時々、無性に辛くなる。そんな時にピアスを開けた。ピアスを開けると痛くて、安心出来たんです。痛いっちゅうことは俺は生きてるて思えるでしょ。これがあれば、思い出せるから。俺がここにおるって』
声が震えている。俺が眉を潜めたのを見たからか光は小さく笑って俺に抱きついてくる。
『家では甥がおるから俺のことなんか家族は忘れてもうてる。学校では人と話すの苦手やから孤立する。怖かった、けど、今は千歳先輩おりますやろ?…やから、もう多分ピアスは増えません』
『…光、』
俺は光から離れ部屋の角にある棚に手を伸ばす。一番下の引き出しからあるものを引き出した。小さな袋に入ったピアス。
『最後にひとつ、開けんね?今度は不幸だからじゃなくて…』

「幸せに、なれるように」
このピアスは、二つでひとつ。俺と光も、そうだから。ずっと一緒にいようと誓ったピアス。
ふぅ、と息を吐き出した瞬間携帯の着信音が部屋に響きびくりとした。時計を見れば七時を指している。朝練に来いと白石から電話でもかかってきたのだろうかと携帯を開くと画面に忍足謙也、と標示されていた。
「忍足、めずらしかー」
「めずらしかぁやあらへんわ!何コール待たせんねん!」
「すまんばい」
「って、そないなことは後回しっちゅー話や!」
そう言えば彼は待ち時間が苦手だったなと思いつつ不思議に思う。不思議に思うくらい、忍足とは電話をしたことがなかったから。大体は学校で良かったから。そんな忍足が電話をしてまで。
「…なんかあったと?」
焦る忍足に、なんだか嫌な予感がして聞く。
「なんや、お前なら理由知っとるて思ったんやけど知らんのかい」
「やけん、何があったと。」
一拍おいて忍足が口を開く。
「財前が、交換留学で外国行ったらしいで」







俺は、何もわかっていなかった。大切で大切で、大好きで、あんなに愛したものを手放してしまった。
『大好きでした。―――さよなら』
唇を噛み締め、瞳を震わせ、必死に笑顔を作っていた光。手を伸ばせば届く距離にいたのに。
「ひかる…っ」
『千歳先輩、千歳先輩…』
思い出す光の表情はいつも悲しそうで、泣きそうで、…俺は光を泣かせないために側にいたんじゃなかったのか。それなのに、俺は光を傷付けた。

もう取り返しが、つかない。




2011.4.9

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -