知らないふり



謙蔵、ちとくら要素有り。







机に置かれたアイスティーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。黒の中に白が混ざりあの人を彷彿とさせるミルクティーに変わる。最近町中や街の外れで良く俺の好きな人と隣に立つあの人の髪と、同じ色に。
ぐるぐるとスプーンを回し満足のいくまでかき混ぜ終わったあと、それに口をつける。ちらりと目の前に座り眉間に皺を寄せた人物を観察していると目が合った。暗い表情と眉間の皺のせいか恨めしいくらい中学時代よりも男前に成長した先輩に逆ナンする女はいない。こんなバーに男二人でいたらいつもは声をかけてくる香水臭い媚びた女一人も寄り付かないくらい、いま目の前にいる忍足謙也という人物は不機嫌オーラを放っているのだ。
「蔵が、最近なにかを隠してる気がすんねん」
蔵、とは。忍足謙也…もとい謙也君が中学時代から付き合っている人の名前だ。男だけど。まぁ俺も彼氏がおるんで人の事は言えないけれども。
「そんなことで今日俺のこと呼び出したんすか」
「ちょっ、そんなことてなんや。こっちは本気で悩んでんやで!」
「はいはい、やったら黙りせんで早う言うて下さいよ。」
仕方がない、謙也君は俺が千歳先輩のことで悩んでたときによう話聞いてくれたし、無下には出来ない。
謙也君は少し悩む素振りを見せたが小さく、そして早口で蔵の帰りが最近遅いこと、時々知らない香水の匂いを付けていること、それから最近キスすら拒まれているような気がすることなど、言った。中学時代スピードスターやらなんやら語ってたことを思い出させるほど早口でだった(スピードスターは黒歴史らしい)。
「多分、蔵は浮気しとる。蔵は俺が気付いてへんて思ってるみたいやけどな、わかんねん。俺は蔵をずっと見てたからわかんねん。些細な変化も、わかってまうねん。」
謙也君は、悲しそうにそして寂しそうに笑った。その笑顔には、見覚えがある。つい最近俺もそんな笑顔やったから。今はもう大丈夫やけど、な。
「蔵は、もう俺のこといらんて思っとるんやろか。もう俺はおらんでもええんやろか」
謙也君はそう言い放つとうつ向いた。俺も何も言わなかった。それから、謙也君は先ほどまでの重くなった空気を振り払うように明るく振る舞い、浴びるようにカクテルを煽った。謙也君はアルコールに強いからええねん。…俺?俺は弱いから少しだけな。アルコールを摂取したせいか変なテンションになった俺らは写真撮りまくったり仕事の愚痴を溢したりと話を楽しんだ後、お互いの家に帰ることにした。時計の針は夜中の四時を指していた。
タクシーを待つ間、謙也君はへらへら笑いながら俺の背を叩き中学時代のことや千歳先輩と俺のことを話し出した。それも同じことを何度も。じじいか。
「お前はええなぁ。千歳とラブラブなんやろ?」
「うっさいっすわ〜」
にやりと笑った謙也君の脇腹に軽く蹴りを入れると、そう言えば中学時代もこんな感じやったなぁて懐かしくなった。そして、千歳先輩とも…。
タクシーが来て、話が途切れる。また飲みに行こうとか約束をしてタクシーに乗り込もうとしたとき、ふいに腕を掴まれた。謙也君は泣きそうな顔をして、「…幸せにな」と言った。俺は、謙也君のその言葉に曖昧に返事をすることしか出来なかった。何故なら、…。











謙也君、謙也君。嘘言ってすんません。ほんまはな、見てしもたんです。
…千歳さんと白石さんがキスしてるとこ。
俺は家の扉を開け、中に入ろうとして人の気配がふたつあることに気づき足を止めた。玄関には見慣れない靴。女のものじゃないということは、またあの人が来ているみたいだ。小さく声が聞こえた。話し声ではなく、掠れたようないやらしい声だ。夜風に当たったせいか急にアルコールが消え失せ体が冷たくなった。俺は脱ぎ捨てられた千歳先輩の下駄を整えると外に出た。
冬でないにしろ、まだ外は肌寒く体が震えた。いや、寒さで震えたのかもわからない。
「謙也君、俺、幸せになんてなれへんよ」



雨が降ってきて頬が濡れた。雨は、何故かしょっぱくて無性に悲しかった。









2011.2.5
千歳と白石君が浮気してます。浮気話最高。謙也君と光君不憫なの美味しいです←
あと変なテンションで写真撮りまくった〜のくだりは管理人の実話です(笑)やらかしちまったぜ。
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