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ただ部活見に行っただけやのに外周五十周マラソンとかいう面倒極まりないものに参加させられ体力は限界だった。さすがにこれ以上走る気にもなれず早足で帰宅すると鞄を放り投げ風呂に直行する。リビングで母親が何か言ってた気ぃするけど取りあえず汗でベタベタした体を清めたかった。

風呂場にシャワーの音だけが響き渡る。元々俺は女だったせいか綺麗好きだ。髪にはリンスは欠かさないし、かなりの長風呂。ふと壁に掛かっている鏡の中の自分と目が合う。

肌、白いよなぁ。ていうか女だった昔の自分より肌綺麗ってどういうことやねん。髪もなんも手入れせんでも艶々しとるし、何より毛が薄い…。本当に男か。筋トレしてもそない筋肉付くわけちゃうから(むしろ付かない)ほっそいし。
肺に溜まった酸素を全て出すかのように息を吐き出すとシャワーを止めた。風呂から上がると脱水所にある洗面台の鏡が湯気で真っ白に染まっていく。それをなんとなく観察しながら部屋着のスウェットに着替えリビングに向かう。帰って直ぐに風呂に入ったから気づかんかったけど、何かリビングが騒がしい。客でも来とるんかいな、そう思って部屋の中を覗き込むと母親と兄貴、義姉さんが机に座って談笑していた。そして、義姉さんの隣に年が近そうな少女が座っているのが見える。茶色かかった肩辺りまでの髪が少女が笑ったせいでさらりと揺れる。だが後ろを向いているせいで顔が見えないでいた。

「あら〜光ちゃん。丁度いいところに来たわね」

母親が俺に気がついて手招きをしてくる。客来とんのに俺がそっちに行ってええんやろか、そう考えながら素直に皆の側に寄る。

「なんや、お客さん来とんのに俺居ってええの?」
「いいのよ!…そうそう、この子はね鈴音さんの妹さんなのよ〜」

義姉さんの?俺が少女に視線を向けたと同時に少女も振り返る。そして、その顔を見た瞬間ドクンと心臓が跳ねた。


「光君、初めまして!斉田藍華て言うんやで。私も四天宝寺中なんよ、よろしゅうな!」


斉田、藍華…“私”の妹やった人。ぐにゃりと視界が歪んだ気がした。

何で、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでや!!!!?

何でお前がそこにおるん、何でそない幸せそうに笑っとるんや。“私”を殺して得たその場所はそない心地ええん?殺意を通り越して失望した。

…そう、少しだけ期待してたんや。少しでも“私”を殺したことを後悔しとるんやないかって。なのに、彼女は無邪気に笑っていた。何もなかったかのように。少しの影もなく、まるで世界一幸せな者だというように。

「藍華ちゃんも此れから一緒に住むから仲良くするのよ」

…一緒に住む?冗談やない。なんで自分を殺した奴と一緒におらなあかんねん。反論しようとして、ハッとした。母親や、兄貴や義姉さんを見ると同じように幸せそうに笑っていた。特に義姉さんは。俺は彼等の幸せを壊すんか?壊せるんか?答えは否。出来るわけないやろ。こんないい人達を悲しませることなんて出来ん。

「嗚呼、よろしゅうな」

引きつる頬の筋肉に叱咤して無理矢理笑みを作った。そんな俺の様子に気づくことなく藍華は頬を染めた。そして気がついた。彼女は“財前光”が好きなんや、て。

はは、滑稽やな。なぁ気付いとんの?気付いとる筈ないよなぁ。此処にお前が好きな“漫画の財前光”は居らへんで?居るのはお前が憎くて殺したお前の姉や。
残念やったな、“漫画の財前光”やったらもしかしたらお前んこと好きになってくれたかもしれんのに。俺は絶対にお前には振り向かん。

俺は胸の内に巣食う闇に呑まれてしまわないよう拳を握りしめ耐えた。

悲劇はまだ始まったばかり。



2010.3.22
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シリアスになりそうですが、まだなりませんよー^^ でもヒロイン此れから苦労しそうな感じですね…。そろそろ金ちゃんを出したいです!

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