空月様へ



彼女はスピードスター?






学校に来るには早い時間、その校内を全力で駆け抜ける。学校で1番速い足を持ってると言っても流石に疲れてくるとスピードは落ちてくる。乱れる息を噛み殺して近くの教室に素早く入り教卓の中に身を隠す。廊下から俺を呼ぶ声が聞こえてびくりと体が跳ねるがわかった。

「…しつこいっちゅーねん!」

俺の名前は忍足謙也や。でも謙也は仮名やねん。一応性別は女、でも戸籍は男。まぁ家の都合で中学までは男装せなあかんらしい。…ほんまは両親は跡継ぎに男が欲しかったんやて。やから俺は男なんやてそう言い聞かされて生きてきた。でも弟が生まれて跡継ぎ出来たから俺はもう用無しっちゅーことやな。でも親を恨んだり男として生活してきたことを後悔はしてへん。めっちゃ大事な仲間も出来たし幸せや。

でもほんまは女やて仲間に――…テニス部の皆には言えへんかってん。黙っとったんやけどある時バレてもた。いつも通り人が来ないくらいの朝早くの時間に来て着替えておくのが日課になってたんやけどその日着替えてる最中に白石が来てもうてん。その、な、胸がオープンな感じやってん…。気がついたらもう芋づる式に皆に広まってた。そこから今の状況になるまで早かった。
俺が女や発覚してから凄い勢いで皆が俺に告白してきた。どういうことやねん。しかも告白だけなら未だしもちょっかいまでかけてくる始末。

「あぁーもういい加減にしてや…!」

「ほんまっすわ」

「ぎゃーーーー!!?てお前かいっ!」

教卓の上からひょこりと顔を出したのは後輩の財前光。生意気で毒舌で鬼畜で容赦ない奴なんやけど、ほんまは優しいっちゅーのを知ってる。
やからついつい構ってまうっていうか。

「また鬼ごっこしとるんすか。先輩ら暇人ばっかや」

はぁ、とため息をつく声がして、なんとなく教卓を出て財前の顔を見ると呆れたようなそんな表情をしてた。
ふいに目が合うとすっと財前の目が細められる。でもそれは冷たいもんちゃうくて、なんていうか…胸がむずむずする感じ、?

「そう言えば財前は追いかけへんなぁ」

「何。先輩、追いかけられたいん?」

「アホかっ!んなわけあるかい!」

「ですよねー」

クスクス笑った顔に不意にどきりとする。なんや、こいつこんな表情も出来るんやな。てか、何や、妙に心臓五月蝿いっちゅーねん。
これじゃあまるで、

「先輩、そんな表情しとったら食われてまうで」

「そんな表情て何やねんっ!でも白石とかやりそうやな…」

白石、キス魔やから隙あればキスしてこようとすんねん。ほんまアカンで、色々と。

「いや、部長とちゃうくて。」

「?財ぜ…」

腕を掴まれ半ば引きずられるようにして窓辺に連れて行かれるとそのまま埃っぽいカーテンにくるまれる。陽の光を浴びて温かくなったカーテンがじんわりと肌に染みた。
温かいなー…やなくて!っ何!?なんやねんっ!何でカーテンにくるまれなアカンの!?パニックになりながらもじっと目の前にいる財前を見ていると不意に両目を財前の手の平で覆われる。

「んん、む…?」

何や?なんか温かくて唇に柔らかいものが触れて…。
―――――柔らかいもの?

すーっと両目を覆っていた手が離れてその手で頬を撫でられる。両目が開けた瞬間に見えたのは財前の長い睫毛やった。
おれ、キスされてる?

「〜〜〜っ!!!?」

「ご馳走様でした」

ニヤリと意地悪い笑みを浮かべて唇を舐めた財前に急に顔に熱が集まってくるのが分かる。

「な、ななな何で…!」

「何でって、決まってますやん。謙也先輩が好きやから」

「好きって…」俺からすっと離れて背中を向けると此方を振り返らないままひらひらと手を振って「返事はいつでもええっすわ」なんて格好つけて出ていった財前を見送ったあと、俺はその場にぺたりと座り込んだ。
嘘や。冗談、とかやないやろうな、財前やし。耳、赤かったし。どないしよう、どないしよう…おれ…!

「っ言い逃げすんなっちゅー話や!」

答えなんて決まってる。
俺はすぐに立ち上がると出ていった財前を追いかけた。






2010.7.1
空月様へ!キリリクです^^謙也成り代わり男装女主でした。ていうかもうこれ、にょた謙也ですよ、ね←
めちゃくちゃ楽しかったです!悔いなしっ!私は!((お前
謙也顔負けな(オイ)ヘタレ小説ですが少しでも楽しんで頂けると幸いですvリクエストありがとうございました!
空月様のみお持ち帰り&返品可。


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