空月様へ 声にならない心を聞いて! どうして、こんなことになってしまったのだろう。 私は普通の中学生な筈だった。名字名前、中学三年成績は中の下で運動神経もまたしかり。もうすぐ受験のシーズンに入る寸前だった。勉強が苦手な私は家に帰る途中に英語の単語帳を持って、それを見ながら歩いていた。でもそれが悪かった。気がついたら車が目の前に迫っていて、やばいと思った瞬間鈍い痛みと共に視界がブラックアウトした。 何が起きたのかなんて直ぐにわかった。車に轢かれた、ただそれだけ。思考だけは冷静で、冷たく体温を無くしていく体に恐怖を覚えた。 でも次の瞬間視界が急に開けてきて、見えたのは何処かの家の天井らしきもの。赤ちゃんをあやす玩具がぶら下がっていて。車に轢かれたことよりもそっちに驚いた。そして、わかったこと。 “私は生まれ変わった” そして生まれ変わった人物は思いもよらない人だった。白石蔵ノ介、テニスの王子様という漫画に出てくるキャラクター。愛読していたからよく覚えてる。最初は同姓同名だとあまり考えないようにしていたけど、中学に入学するときにはやっと諦めがついた。そして後悔もした。私が死ぬあの時、きっと何かの加減で私は彼の生きる時間を奪ったのだろう。は私のせいで彼は消えた。…そう、私のせいで。だから私は完璧になると決めた。漫画での彼に近づけるように血ヘドを吐く勢いで努力をした。彼の築くはずだったものを私がする。しなければならない。そう思って今まで生きてきた。それなのに、 「白石は頑張りすぎばい、そげん練習せんでも白石なら大丈夫と」 柔らかい笑みを浮かべて大きな手で髪をゆっくりと撫でられる。それは私を慰めているようで酷く安心した。千歳千里。この間熊本から引っ越してきた編入生だ。…知っていた。千歳千里が熊本から大阪へ来ることを。四天宝寺中に入学することも知っていた。テニス部の一員で、彼の同級生。駄目なのに、駄目だとわかっているのに、私は…千歳千里に恋慕の情を抱いてしまった。 「…千歳堪忍な、そんでおおきに。でもアカンねん。もっと練習せな、」 「白石、」 千歳は心配そうに眉を寄せる。やめてや、そんな顔せんで。千歳に何がわかるん?俺のこと何も知らん癖に。初めから“千歳千里”として望まれて生まれたお前に何がわかるというんだ。 そう考えて私の胸の奥はずきん、と痛んだ。千歳への恋慕の情と禍々しい行き場のない嫉妬心に狂ってまいそうや。 「どうして、そんなこつ…」 千歳はぽつりと何かを呟いたかと思えばいきなり私の腕を引きぎゅっと抱き締めた。 「そんな苦しそうな表情して、ほっとける程無神経じゃなか。俺じゃ駄目とや?…俺じゃあ白石の力になれんと?」 耳元で小さく聞こえた声に目からぽろりと涙が零れるのがわかった。抱き締められ千歳の厚い胸板に顔を押し付けられているせいで千歳の鼓動を感じて酷く安心する。そして安心したと同時に今まで堪えていたものが溢れ出た。 「ち、とせ」 「…」 「千歳、ちとせちとせ…っ!」 「…うん、」 「千歳、俺、怖い、」 本当は、ずっと怖かった。 私が私ではなくなってしまったこと、彼の人生を奪ってしまったこと…千歳を好きになってしまったこと。怖くて、怖くて仕方がなかった。 「大丈夫、大丈夫やけん。思いっきり泣きなっせ」 千歳の言葉は甘く優しくて、張り詰めていた心が軽くなった。泣き終わったらすぐいつもの私に戻るから、だから、 今だけは。 2010.6.12 空月様へ相互記念です^^やっと書き終わりました…!お待たせしてしまい申し訳ありません!!作業遅すぎる← 白石成り代わりで蔵→千です!趣味が爆発してますでも自重はしない☆(お前…) 少しでも楽しんで頂けていられれば幸いです(*^-^*) 相互ありがとうございました! |