08 三十周目。周りの奴等はもうバテバテや。ま、そういう俺もそうなんやけど。切れる息に舌打ちする。…やっぱ、あれのせいやろな。走りながらちらりと自分の足を見る。土に汚れた運動靴と足首のあたりに縛り付けてある重石。何故か義姉さんが手作りで作ってくれたやつ。ズレないからお気に入り。トレーニングのつもりでいつもつけてるんや。今日は見に行くだけ思っとったし。付けたまんまや。その重石が今はキツイ。 体力ない、思うてたけど良く考えたら俺いつもあのゴンダクレに付き合っててかなりあるんやと今日わかった。キツすぎて倒れたやつもおるのに俺だけまだ普通に走ってるしな。先輩らも目丸くしとったで。なんか笑えた。 「財前ー!三十二周目やで!」 白石部長がめっちゃ良い笑顔しとる。その横で忍足先輩もヘラヘラしてた。……なんかムカつく、なんでや。走りながら忍足先輩を観察するとなんや知ってる人物にたどり着いた。兄貴や。めっちゃ似とる…!ヘラヘラしとるとことか、アホそうな(先輩やけど)ところとか! イラッとして唇をを噛んだ瞬間、地面の凹凸に躓いて膝から崩れた。先輩らが声を漏らす。あーもう、重石面倒くさいわ。 座り込んだ俺を心配したのか白石部長と忍足先輩が駆け寄ってくる。別に転けた訳やないんやからそない心配せんでもええのに。立とうとしたら疲労した足に重石が邪魔をしている気がして、軽く舌打ちしたあと両足の重石を外した。 「大丈夫か財前」 「怪我したんか!?」 座ったまま立たない(重石外してただけやけど)俺を心配したのかこちらを覗き込むようにして見る忍足先輩が兄貴とダブって見えて、思わず持ってた重石を忍足先輩の足元に投げつけてやった。 「先輩らウザイっすわー」 ドコッと鈍い音をたてて地面に叩きつけられた重石に先輩らは唖然とする。あ、重石は怪我をさせたらあかんからちゃんと足にあたらんように投げつけたで? ジャージについた砂を落とすと乱れた息を整え不敵に笑う。袖で流れる額の汗を拭うと再び走り始めた。 「凄いやん!財前!」 五十周走り終わったあと、先輩らが俺に集ってきた。笑いながらバシバシ俺を叩いてくるんやけど。走り終わったばっかりてキツイねんから一人にしてやぁ。笑う膝を手で押さえて先輩を睨む。 「重しつけたまま走るなんて体力あるなぁ」 「凄いわねぇ!それにイケメンや、ロックオン☆」 「小春!?浮気かっ!!」 騒がしい先輩達やなぁ。でもオモロイかもしれん。でも今ので確実に他の一年には嫌われた気ぃするわ、めっちゃ睨んできよるし。小さくため息を吐くと俺は地面に座り込んだ。その間なんか先輩らは「財前は天才や!」とか騒ぎよった。俺は天才ちゃう、天才ちゅうんはあのゴンダクレとかのことゆーんや。 騒ぐ先輩から視線を反らし校舎の方を見る。瞬間ゾクリとした悪寒が背を走り思わず自分の肩を抱き締める。何や、今嫌な感じがした。悪いことがおこるような…。俺の悪い予感はよう当たるんやけど、今までのとは別ちゃうくらいヤバかった。 運動とは違う嫌な汗が止まらなくて俺は唇を噛み締めそれに耐えた。 「気のせいやと、ええんやけどな」 紡ぎ出した声は微かに震えていた。 2010.3.21 |