3センチ
 



―ピン…ポーン…

呼び出し音がその家中に響き渡り、昌樹は彼女がいる部屋であろう窓を何度も見つめた。
その豪邸ともいえる家の庭には庭師が手入れしたであろう木々が芸術品としてあり、緑の生えた季節から綺麗な紅葉になる季節がやってくる。

「…?」
「いないんじゃないのか?」
「そんなことはない、はず…」

過去に飛んでゴタゴタを起こしてから、護衛と称された見張りがついている。
今回は殆ど祖父についている弁才天が傍らに立っており、横目で昌樹を見た。
いつもならすぐに玄関が開いて中に入れるのに、なかなか出てこなく少し不安な昌樹。
もう一度、呼び鈴を鳴らそうとしたその時、バンッと激しい音と聞きなれた声が頭上から聞こえた。

「明音!」
「昌樹!!」

窓から身を乗り出して、明音に笑みがこぼれ、昌樹に大きく手を振った。
自然と昌樹にも笑みが出て、おはようと言うと明音も返事を返した。

「今開けるから待ってて!」

開けっ放しの窓を放置して、明音は急いで部屋を飛び出した。
そこまで時間がかからないうちに、玄関の扉が開いた。

「上がって、昌樹」

目の前には会いたかった人物。
頭一個分小さい彼女は昌樹の腕を掴んで、だだっ広い豪華な部屋へ足を踏み入れた。
すれ違う使用人たちとは顔見知りで、会う度に微笑ましい笑顔で迎えてくれる非常に良い人たちだ。

「今、柏木がお茶持ってくるから待ってて」

見慣れた白で統一された豪華な部屋。
三人掛けのソファーに座り、改めて部屋を見渡すとものすごく広い。

「あ。明音、病み上がりなんだから静かにしてないとダメだろ」
「もう大丈夫よ、お医者様も治ったって言ってたもの。」

ふと思い出した昌樹はちょっとムッとした表情で明音を見るが、ふふっと軽く笑う明音。

「(ほう、昌樹もそういう表情ができるのか…)」

ずっと弁才天は隠行をしており、邪魔しないように影から見守っていた。
安倍家では絶対見れないような感情をあらわにした表情。
これを大黒天や毘沙門天に見せたら目を疑い絶句するだろう。
昌樹も彼女の前になると性格ががらりと変わるようだ。

「(いや、元に戻ったと言った方がいいのか…)」

傍らから見ててその二人のやり取りは弟と幼馴染の行動と全く一緒なのだ。
張りつめた冷たい雰囲気は昌樹が作ったもので、ありのままではない。
本当は弟と同じ性格、雰囲気、人柄なのだ。
昌樹の本質をありのままにさせている彼女がどれほど彼の支えになっているのだろうか。

「だーめーだ!治ってすぐが一番危ないんだからな。」
「平気よ。悪化しないように薬も飲んでるもの」
「いやいや、薬を飲んでたらまだ完治してないからな。」

ほらほら、ベッドに戻ると言いながら、明音の背中を押して、半強制的にベッドに寝かせた昌樹

「全く、なーにが完治したから遊びに来てって。」
「治ってるもの。」
「はいはい。…あ、熱は?」

さっきすごく騒いだから悪化してたら家族に悪い、とつぶやいて体温計を探すが、どこにもない。

「動くなよ。」

さらりと彼女の前髪をかき上げて、自分のおでこをさらけ出し、額同士をくっつけた。

「…っ…!!!」

ぼんっと真っ赤なリンゴのように顔を赤くする明音

「んー…、熱はないみたいだな」

少し明音から離れ、目の前には顔いっぱいの明音。
同様に明音にも顔いっぱいの昌樹が映っている

「ま、今日はおとなしく安静だな。」

ぽんぽんと優しく明音の頭を撫でて、柔らかく笑顔を見せれた。
その距離

3センチ

(あれ?顔、あか)
(だっ大丈夫だから…!!)
((近すぎて恥ずかしいなんて言えない))



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