唐揚げを宴会場に置いて壁時計を見るとそろそろ栄さんが来る時間だった。

「…………」

長テーブルを繋げて、この場所に20人以上の親戚が集まって食を楽しむのだ。
あたしはその空間から目を逸らし、自室へ足を進めた
ドタドタと騒がしい足音と複数人の声がした。
また親戚の人がやってきたんだろう。
その音はこっちに向かってきて、急いで自室に駆け込んだ。

<メッセージがあります。>

OZに入ると大学の友人からだった。
夏休みのレポートと明日一緒に出掛けようとの事だった。
すぐに断りの返信を送り、することもなくOZを散歩させる。
適当にお店に入ってウィンドウショッピングを楽しむ

<……暇、>

近くでアイスを買ってベンチに座ってアイスクリームを食べる
夕飯時にも関わらず人が少ない。
ボーッとしながら人間観察もといアバター観察をする
視界にニョロニョロみたいなヘッドホンをつけてる緑色のアバターが左右に揺れながら歩いてきている。

<……?>

その緑はあたしの前に立ち止まって手を差し出し、手のひらには小銭が二枚ほど持ってる

<さっきのアイス屋でお釣り忘れたでしょ?>
<………どうも、ご親切に…>

別にお釣りなんていらなかったのに。
緑のニョロニョロは律儀に持ってきてくれたみたいだ。

<隣いいかい?>
<どうぞ…>

人気のいない時間帯で良かったと思ってる。
自慢ではないが、OZでは超がつくほどの有名人だ。

<俺はリイチ。君は?>
<……知らないの?結構有名だと思ったけど…>
<あまりOZをやらないからね>
<…アズサ>

リイチもアイスを食べながらゆらゆら体が揺れてる
ちらりと一瞥してアイスを口に含む。

<ああ、キング・カズマの…名前は知ってるよ、君だったんだ。はじめて知ったよ。>

「珍しい人だなー」

真っ暗な部屋でカタカタとキーボードを打っていく。

「てゆか、もの好き?話しかける人いなくなったっていうのに」

たかが小銭だけで
新手のナンパ、とか?
めんどくせぇ

<次は小銭忘れないようにね、これも何かの縁だから。俺の連絡先、暇なとき連絡頂戴>

そう言ってリイチから連絡先をもらって、緑色はログアウトした。

「やっぱ新手のナンパじゃん。」

そう言いつつもアズサがちょっと嬉しそうだったので連絡先を登録しておいた。
ガヤガヤと外が騒がしくなり盛り上がっているようだ。
明日にはもっと多くの親戚がやってくると考えると嫌になってくる。

「あー…やだな。」

部屋にあるお菓子を貪りながら、中に入れないように内鍵をかけた。
念には念をいれて、誰も入れないように扉に荷物を寄せて入れないようにする

「非常食はあるし一週間くらい平気か。」

<メッセージがあります。>

OZからのメッセージが届き、開くと友人から大学のレポート内容が送られきた。
しかも、内容の説明事項ではなく、論文が完成されているものだ。

「持つべきものは友人だね、感謝感謝」

早速それを印刷してホチキスで止めた。
後は大学に発送して終わりだ。

「これで夏休みも暇して過ごせる」

ごろりと畳に横たわり、クッションを抱き寄せた。

少しだけ仮眠を取ろうか。
どうせここからは休ませてくれないんだ。


一回休み
(理一、梓はどうしたの?)
(あー……、部屋じゃないかな)
(全くあの子は……後で唐揚げ持って行って理一)
(別にいいんじゃない?いっつもあいつあんなんだしー)


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