今でも覚えているのは栄さんに手を引かれながら、連れてこられたひまわり畑
どうしてひまわり畑かは分からないけど、確かにひまわり畑だったんだ。
一面黄色くって、太陽に向かって咲いていた。
「…栄、さん……」
ああ、そうだ。
あそこに行く前は誰も相手にしてくれなくって、球蹴りして遊んでたんだ。
『さかえ、おばあさん…?』
『おばあちゃんと散歩に出かけようか。』
『!……あ、』
小さい頃は皆、おばあちゃんおばあちゃん言っていたからそれを真似ていたのだ。
散歩ときいて正直嬉しかったけど、持っているボールに力が入る。
パッと顔を栄さんから逸らして茶色い土を見つめ、小さいアリ達が列をなして歩いている。
行かないと小さく頭を振ると、栄さんがボールを持っている手を握りしめてくれた。
『私はね、梓と散歩に出かけたいんだよ。おばあちゃんの我侭さ』
おずおずと目線を上げると視界に栄さんが満面な笑みで笑っていて、それが眩しくって、また目線を逸らして小さく頷いた。
会話は何もなかった。
澄んだ綺麗な青空に映える黄色いひまわり畑。
自分自身が異質な存在だということは知っていた。
『……、さかえおばあさん』
『なんだい?』
どうして私を拾ったの?とずっと聞きたかった。
だけど、それを口にしてしまうと今までの出来事が総崩れしそうで、陣内家に迷惑がかかってしまう。
ギュッと掴んでいる手を握り締め、一文字に口を縛る。
『………っ、…おはな、きれい、だね…』
ろくに見てもないひまわり畑
ずっと俯いて歩いてたからわかるはずもない。
『そうだねえ、一面綺麗なひまわりだ。』
ギュッと栄さんからも手を握りしめてくれた。
大きくてあったかくて優しい手。
『さてと、…そろそろ帰ろうか。』
うんと小さく頷いてあの大きな屋敷に戻った。
『梓』
『?』
『今は苦しく辛いかもしれないが、最後は幸せになれるよ。』
♂♀
「…栄さん、……栄さんは、あたしを家族だと思ってた…?」
今は凄くさみしいんだ。
急に一人になった気がして、怖いんだ。
今更気付いたって遅いよね。
栄さんの存在がここまで大きいなんて思いもよらなかった。
あの人がいたからあたしはここまで何事もなく平然と生きていけた。
今は亡き人に守られいたが、その人がいなくなった今、どうなるんだろうか。