いつもは大広間で食べているが、今朝はリビングで朝食を摂ることになったが万里子さんと子供達以外は手をつけない。
「今日は忙しくなるわよ。典子ちゃん、由美ちゃん、奈々ちゃん、台所をお任せするわ。お通夜のお酒足りるかしらねー……」
万里子さんがお葬式の準備を指揮するが次男の万助さんが仇討ちだと訴え始めた。
それに対して呆れる女性陣に小磯健二もラブマシーンの撃退に賛成した。
「今までOZでの出来事が人の命に関わるなんて思ってもいませんでした。奴は危険です。昨日や今朝のようなことが今後どこかで起こってもおかしくありません。」
せめて、僕たちだけでもやつを止めないといけない。と小磯健二は言うが、直美さんが声を上げた
「あんたなに言ってんの?」
「ですから、これ以上被害を出さないためにも…」
「人んちで何馬鹿なことを言ってんのって言ってんの!なんでこんな時に他所んちのことまで考えなきゃいけないのよ」
ああ、嫌だな。
家族だとか他人だとかそういうの嫌だな。
身内でも栄さんの葬式の準備と栄さんの仇討ちとで殺伐しているし、栄さんならこの状況どうしてたんだろう。
万里子さんがこの場を締めて、栄さんの葬式準備で各々動き始めた。
パソコンを見てもアズサはハッキングしておらず、心配そうにこちらを見つめている。
「どいつもこいつもそれでも陣内家の人間かってんだ!」
万助さんの言葉にパソコンを触ろうとした指が硬直する。
パタンとパソコンを閉じて椅子から立ち上がった。
「どこに行くんだ、梓…?」
「部屋に戻ります。栄さんのことは非常に残念ですが、あたしは」
陣内家の人間じゃないと言おうとしたら佳主馬に引き止められた。
「俺ひとりじゃ、あいつを倒せない。アズサが必要だ。」
「そんなのアメリカ政府に任せればいいでしょ、あれを保管してるのはアメリカなんだから。」
「それじゃ遅いんだよ。アズサのハッキング技術を使えばやつの弱点がわかるかもしれない。」
ハッキング技術ときいてザワリと不穏な空気が流れる。
ラブマシーンも人工知能を持つハッキングAIだ。
「お前さん…梓のアバターもハッキングできるのか?」
「………ラブマシーンほどの高性能は持ち合わせていませんが、一応あります。」
「侘助と同じじゃねぇか…、ガキの頃から侘助にしか懐かなかったな、そう言えば…」
裏で何か繋がってるのではないかと疑い始めた万助さん。
じとりと警戒する目で見つめてくる。
「境遇が同じ者同士、考えることは一緒ってか?」
「え?」
「お父さん!それは…」
それはこの家の暗黙の了解。
捨て子であるあたしと妾の子の侘助。
陣内家で微妙な立場として育った二人。
話し合わなくても雰囲気で、ああこの人もあたしと同じだと感じた。
ふたまわりも回っている義兄とは気付は一緒にいるようになった。
その複雑な生い立ちについては余り公言してはならないことになっていた。
少なからず本人のいる前では、だが。
「親がロクでもねぇ奴ならその子供もロクでもねぇクソ野郎だな。」
「ああっ、梓ちゃん!気にしなくていいからね、気が立っちゃってるだけだから…!」
必死にフォローしてくれる太助さんだが、あたしは万助さんを睨みつけた。
「そのロクでもねェ捨て子のあたしを拾った陣内家もロクでもねぇクソ野郎だよ。」
冷め冷めとした目で見下すように万助さんを見つめれば、椅子から立ち上がった万助さんがあたしの胸ぐらを掴みあげた。
流石に暴動が起きると思ったのか太助さんや理一さんが止めに入ろうとする
「なんだと!!?もういっぺん言ってみやがれ!!」
「血の繋がりを大事にしてきたお前らが、家族でもない赤の他人の二人を傍に置いて、一族やら家族やら言ってんが意味わかんないって言ってんの。嫌々なら置き去りにして殺せば良かったでしょ。」
無理矢理万助さんと引き裂かれ、パンっと頬を平手打ちされた。
「り、理一、さん……」
「馬鹿なことを言うんじゃない。」
大きな両手で顔を固定され強制的に理一さんと目を合わせることになる。
「おばあちゃんや仁美さんが育ててくれたんだ。恩を仇で返すようなことは言うな。」
「……なに、今更家族ぶって説教たれてんの?あたしは陣内の人間でも、一ノ瀬の人間でもないの。実親の顔だって苗字だって何一つわからないロクでもない人間なんだよ」
自分で言ってても本当に情けない。
小さい頃からあたしが捨て子なんだっていうのは知っていた。
陣内の雰囲気と馴染めなかった。
どこか栄さんも他の人も遠慮気味に接してきて、大きな壁や溝がすでにあったのだ。
「ラブマシーン倒すのはあんた達で勝手にやって、敵討ちは勝手に身内でやればいいでしょ」
理一さんを押し離して逃げるようにその場から立ち去った。
ドタドタと走って部屋に入り込めば内鍵と扉にありったけの荷物を押し付ける。
「っ………!!!」
ズルズルと座り込んで嗚咽混じりの声をあげた。
ああ、情けない。
(分かりきっていた事だった)
(ロクでもない人間がロクでもない人生を送ることくらい)